夏と月夜とハイボール
黒潮旗魚
夏と月夜とハイボール
夜が深く沈んでいく。
月が空の底に着いた頃、ふと目が覚めた。
蒸し暑い夏も終わりかけだ。
ちょっと前まで、エアコンが毎日残業してたのに、今ではその役割が扇風機で補えている。
夏は嫌いだ。
しかしやっぱり夏の終わりは寂しいものだ。
時計を見ると0:41
ベッドに入ったのは23:00
歳をとる事に時間は早く進む。
そんなこと聞くが、寝てる時は例外らしい。
バッチリ目が覚めてしまった。
高校生の時なんかは眠い目擦って夜更かしどころかオールで遊んでいたものの、今では遅くても12時には限界が来る。
体力の限界なのか、自分に必要な時間が少なくなったのか。
どちらにせよ、残酷なものだ。
とはいえ、この静かな夜更けの時間、高校生の時とは違う楽しみ方がある。
遠慮などいらない。
なぜなら明日は土曜日だ。
冷蔵庫に向かう。
足取りは軽い。
廊下の軋む音なんて気にしない。
止める人など誰もいない。
まさに1人ゆえの特権である。
冷蔵庫を開けると、中の光で目が眩んだ。
冷やしたグラスとウィスキー。
あえて安めのウィスキー。
冷凍庫からロックアイスを取り出し、グラスへ滑らす。
カランコロンと高い音。
まさに大人の風鈴だ。
そこへよく冷やしたウィスキー。
氷がギュッと食いしばる。
一番下の氷の2/3が浸る程が好きだ。
そしてゆっくりと強炭酸を流し入れる。
盛り上がる炭酸と背徳感。
なるべくグラスのギリギリまで。
理由は沢山飲みたいから。
やってることは大人でも心はまだ無邪気みたいだ。
そして最後に軽く氷を踊らせる。
気分でレモンを入れてもいい。
夜更かしハイボール。
背徳感と優越感がスパイスだ。
飲み心地はまるで夏。
スッキリしていてあっという間。
腹の中はアルコールで炎天下。
鼻に抜けるスモーキーな香りは、さながらセミの一生のようだ。
深く息を吐く。
樽の香りと幸せが喉を通って外へ出る。
そしてまた1口。
炭酸が喉に刺さる。
香りが鼻を貫いていく。
そしてまた大きく一息。
笑顔がこぼれる。
あくびが出る。
同時にハイボールを一気に飲み干す。
軽くグラスを洗い、冷蔵庫に戻す。
そして布団へ戻る。
扇風機の風が気持ちいい。
夢は近いようだ。
夏と月夜とハイボール 黒潮旗魚 @kurosiokajiki
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