第14話
これは別に難しくない。そもそもポーズの話になったら鞍馬先輩が率先して僕を脱がせようとしてくるからむしろ僕は露出具合をセーブする側に回ってみんなの意見を取り入れながら次のポーズを模索するけどそれはすぐに何を着るかの話になる。
まず体操服になり、次に私服、メイド服を挟んで陸上部のユニフォームになり、そこから怒涛のあたしが考える最強にフェチぃ部活系ユニフォームバトルが開催され、それが落ち着くと今度はスケベナース服とかスケベポリス、スケベ男教師みたいなAVの世界とハロウィンでしか見ないエロコス大会になり、オタク系コスプレにシフトする。
なにを着るかは会の終わりにみんなで話し合うんだけど決めるのは僕だ。衣装は参加者の持ち寄りで、不可避的に僕の使用済み衣装をゲットできるという特典が付随してしまうけど僕がシコれる男子ランキングダントツ一位なのは周知の事実だし僕も女子にズリネタにされるのは嫌じゃないので堅い事は言わずむしろ栄誉ある特典をゲット出来た女子にやんわりとシコった感想を聞いて恥ずかしがらせたりして遊んだりする。
で、この話はまた別の時にするつもりだけど僕は趣味と実益を兼ねてコスプレをやっていてちょっとエッチな撮影会を開いたりしている。だからというわけじゃないけど僕はモデルに対して抵抗がなくこの通りサービス精神も旺盛なのでちょっとずつポーズがエロくなる。
雄豹のポーズに(この世界の豹はあくまで普通の豹だけどエロ=雄みたいな認識なので雄豹になる)M字開脚、I字バランスに(支え有りだけど二度とやりたくない。マジでしんどかった)にゃんにゃんポーズ(これは楽だけど恥ずかしいからあんまりやりたくない)等々。
そんな事をしていたら当然噂になってデッサン会は大盛況になり部員優先の定員予約制になる。治安面は鞍馬先輩が上手くバランスを取って一見するとかなり如何わしいけどいざ始まればみんな無言で鉛筆を動かす真面目な会になる。
でも定員制になった事で美術部と僕が結託して参加費を徴収してるとか(お金は少し取ってるけどあくまでも参加者の画材を揃える為だ)実は乱交パーティーだとか変な噂も流れ出しある時風紀部というかてっしーが乗り込んできてひと悶着ある。
その頃はまだてっしーと寝てないので性欲と処女と正義感を拗らせたてっしーは天敵みたいな存在で一方的にデッサン会を如何わしい集まりだと決めつけて風紀委員の権力を振りかざし中止に追い込もうとする。
鞍馬先輩がどれだけ説明しても聞きもしないので僕も腹が立っててっしーもあたしはエロなんか興味ないから! あくまでこれは学校の風紀を守る為! みたいな顔をしているから嘘つけこのムッツリスケベ! と誘惑したら案の定僕を押し倒しそれによってこの件は有耶無耶になる。
そうこうしている内に美術部は名実共にまっとうな規模の美術部に成長してデッサン会がない日も普通に部員が集まって真面目に絵を描くようになる。
鞍馬先輩や他の部員の中に賞を取る人も出始めてその中の一つが僕をモデルにした絵で地方紙に小さく乗りツイッター(この世界ではまだイーロンマスクに買収されていない)でもちょっとバズり鞍馬先輩や美術部の人達に謎に感謝されて僕は嬉しいやら恥ずかしいやら誇らしいやらヘンテコな気分になる。
それで美術部は生徒会に目を付けられてデッサン会についてとやかく言わない代わりに美術部のアカウントを作って学校PRに利用しようとする。
僕はなんだかなぁと思うけど鞍馬先輩はそれ以上に美術部の活動がよく分からない別の思惑に利用されるのが不満らしく本気でデッサン会を辞めにしようか悩んで僕に相談する。
「芸術とは自由な物だ。自由な心の発露なんだ。学校のPRになんか使われたら、ボクは自由でいられなくなる。……いや、それは言い訳だ。ボクは別に、生徒会なんか怖くないしどうとも思わない。ただ、ボクやみんなの描いた純粋な芸術が無関係の人間に利用されるのが嫌なんだ。芸術は意味を持つ。ただ有るだけで持たざるを得なくなる。その意味はどんな額に入れ、どんなタイトルをつけ、どこに飾るかで変わってしまう。ボクはボクの絵を、学校という額に入れたくない……」
「じゃあ辞めればいいんじゃないですか」
気軽そうに僕は言う。でも、気軽そうに言っただけで内心は全然気軽じゃない。
本当はやめて欲しくないけど鞍馬先輩が嫌なら無理強いは出来ない。
「出来ればそれはしたくない。もはや美術部は、ボク一人がどうこうするには大きくなりすぎた。飴村君のデッサン会を楽しみにしている生徒も大勢いる。ボク一人のわがままで無くすなんて出来ないよ」
「じゃあ続けたらいいんじゃないですか」
としか言いようがない。言いたい事はあるけれど、それは口にしたくない。僕は美少年だ。僕は人気者だ。僕の言葉には力がある。ある程度、他人を思い通りに動かしてしまう力だ。他人を操り人形にしてしまう力だ。鞍馬先輩をそんな風に操りたくない。
でも鞍馬先輩は言う。
「僕の意見はどうでもいいんだ。問題はみんなと飴村君の気持ちだよ。モデルあってのデッサン会だからね。飴村君が嫌ならみんなの気持ちは関係ない。生徒会の言い分を通せばみんなが描いた飴村君の絵をネットに上げる事になる。それはリスクだ。嫌な思いをさせる事なるかもしれない。……正直、ボクはやめておいた方がいいと思う」
鞍馬先輩は本気で僕を心配しているようだった。
当然だ。
大の大人でさえSNSで炎上騒ぎを起こしている。
みんなが描いた僕の絵をツイッターに上げて、僕にどんなメリットがある?
リスクはいくらでも考えられる。
その責任はどこの誰が取ってくれるのか?
それを考えれば鞍馬先輩がシリアスになるのも仕方ない。
「僕は平気ですよ」
あっけらかんと僕は言う。
これに関しては本当に、あっけらかんとしたものだ。
「いや、もっとよく考えた方がいいと思う」
「平気ですって。僕、顏出しでツイッターやってますし」
「え?」
驚く鞍馬先輩にスマホを見せる。
貞操逆転世界で超絶美少年に生まれてしまったらツイ廃にならざるを得ない。
前世で満たされなかった承認欲求を満たす為、僕はかなり早い段階でツイッターを始めていた。
将来を見据えて動画投稿もやっているのでその宣伝も兼ねている。
登録者数は50万人で右肩上がりだ。
内容はご飯とかちょっとした呟きとかエッチな自撮りとか動画の宣伝とか。
だから、僕をモデルにした絵がネットに出回るくらいなんでもない。
「めちゃくちゃ有名人じゃないか!?」
「知らなかったんですか?」
「うん……。インターネットはあまり得意じゃないんだ……」
そういう人もいるだろう。
そんなこんなで先輩は生徒会の要求をのみ美術部のアカウントで僕をモデルにした絵やそうじゃない普通の絵を公開する。
元々の僕の人気も相まって美術部のアカウントはちょっとバズる。
自分の描いた絵が何百、何千といいね&リツイートされ鞍馬先輩達は一喜一憂する。
新たなモチベーションが生まれて美術部は以前にもまして精力的に活動する。
僕の絵をネットに流すのだ。
生半可な絵じゃ恥ずかしい。そういう感じらしい。
それから暫くして、鞍馬先輩は急に美術部を辞めてしまった。
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