第12話

 何事もなく一週間が過ぎる事はない。


 良い事もあれば嫌な事もあり、嬉しい事もあれば悲しい事もある。


 ある意味ではいつも通りの一週間が過ぎその間に僕の気持ちは少し冷めモデルをやるのが億劫になる。


 でも流石に二回目でブッチするのは義理に反するので仕方なく美術室に向かう。


 すると今回は知らない顔が二人増えている。


「例の幽霊部員だよ。飴村君の事を話したら是非参加したいと言い出してね」

「「よ、よろしくお願いします!」」


 幽霊部員のAとBが乱交パーティーに誘われた童貞みたいに不安と緊張と下心がまぜこぜになったニヤけ顔で頭を下げる。


 元々ふんわりそういう感じになりそうな話は聞いていたから別に僕は気にしないけどなんとなく浮かない気分だったからなんだかなーとは思う。


 でも鞍馬先輩は凄く嬉しそうでこんな時ばかり部活出てきて調子いいよなぁ……みたいな雰囲気を出すAとBの肩にがっしり腕を回して「よく来てくれた!」「飴村君をモデルに出来るなんてボク達はついてるぞ!」「絵の事で分からない事があったらなんでもボクに聞いてくれ!」「難しい事は考えずに楽しんで描けばいいのさ、ははは!」と励ましたり僕に聞こえないように下ネタジョークを飛ばして場を和ませる。


 僕はそれをいや全然聞こえてますけどねと思いつつ鞍馬先輩がちゃんと部長面してる姿とか女子達の友情っぽいやり取りに前世で言う所のBL的な百合味を感じてふ~んエッチじゃんとか思う。


 それで現金だけどやっぱり来て良かったかなと億劫な気持ちが少しずつなくなりこういうのは面倒だけど来てみればなんだかんだ楽しいんだよなと百万回は思った事を性懲りもなく再認識する。


 鞍馬先輩の指示に従い靴下と靴を脱いで机の上で足を組むんだけどそれだけの事でAとBが初めて男体の神秘を目の当たりにしたみたいに「「おぉ~!」」と感嘆の声をあげて乳首を甘勃起させるから面白い。


 見るからに冴えない処女さん達だから当然なんだけどあまりにも処女然とした処女ムーブに僕はタマタマがキュンとしてサービスしてあげたくなり無意味に足を高く上げて組み換え際どいパンツの中身をチラチラさせる。


「「「うおぉ~!!!」」」


 僕を囲むようにカンバスやスケッチブックを並べたAとBと鞍馬先輩が人を刺せそうなほど鋭利に尖った鉛筆を力いっぱい握りしめ低い声を上げる。


 なんだかストリップショーでもやってるような気分というか限りなくそれにちかい事になってるぞと思って勝手に僕はドキドキする。


 そんな内心を見透かされるわけはないけどバレたら恥ずかしいなと勝手に恥ずかしくなり僕はスカートの前を押さえて彼らに言う。


「エッチ」

「「さ、さーせん!」」

「ははは。じゃあ、はじめようか」


 いいタイミングで鞍馬先輩が宣言するけどまだなんとなくAとBは緊張していて場の空気もぎこちない。


 それが僕にも伝わってなんとなくお尻が落ち着かずソワソワしてしまう。


 なにか言って場を和ませてあげてもいいけど一応僕をモデルにしたデッサン会という事になっているから下手に口を出したら邪魔な気もして言い出しづらい。


 なんて思っていると普通に鞍馬先輩が世間話を始めてAVのインタビューみたいなのが始まる。


 多分その場の全員が全く同じ事を思っていながら口には出せず、冷たいプールに爪先を浸して身体を慣らすようにちょっとずつ描いては消してを繰り返す。


 次第に会話の量が減り言葉よりもサラサラという鉛筆の音の比重が増え始める。


 チラチラと盗み見るように僕の身体を視姦していたAとBも次第に真剣味を帯びただのスケベ娘から芸術家の顔になっていく。


 鞍馬先輩はとっくにモードに入っていて彼女の真剣さが伝播したのは明らかだ。


 それは僕にも伝染してエロ雌達が真面目に絵を描く姿に普通に見惚れてお尻のソワソワも完全になくなる。


 いつしか美術室は鉛筆の動く音と呼吸音しか聞こえなくなり僕と彼女等は一つながりの芸術になる。


「今日はこれくらいにしておこうか」


 鞍馬先輩が切り出して僕は初めて窓の外が暗くなり始めている事に気付く。


「げ、もうそんな時間?」

「早っ! まだ全然描けてないよ~!」

「楽しい時間はあっという間だね!」


 名残惜しくも楽しそうな三人の顔に僕も感化される。


「別にもうちょっと付き合ってもいいですけど」

「お、マジですか!」

「っしゃ!」

「嬉しい申し出だけどやめておこう。飴村君に夜道を歩かせるわけにはいかないからね!」


 鞍馬先輩のイケメンならぬイケ女ムーブに不覚にもちょっとキュンとする。


 別に好きとかそういうのでは全くない。


 この世界のヒト雄の生態としてそういうムーブをされると本能的にお腹の奥とタマタマがキュンキュンしてしまうだけだ。


 分かっていてもなんか悔しいけど。


 とか思っていると。


「いや待てよ。それならボクが夜道をエスコートするというのはどうだろうか!」


 先程までの芸術顔は何処へやら、送り狼的な下心を丸出しにして言ってくる。


「それなら私も!」

「あたし空手やってます!」


 AとBもエロい目になり挙手をする。


「遠慮します。先輩達の方がよっぽど危なそうなんで」

「そりゃそうだ。はははは!」


 ちゃんちゃん、みたいな楽しい空気でデッサン会はお開きになり当然のように来週も行われる空気になる。


 僕もわざわざ確認は取らず当然のように行ってもいいかなみたいなテンションになる。


 そしてまた一週間が経ち色々な事があるけれど今回は億劫にはならなくてむしろちょっとデッサン会の日が待ち遠しく思える。


 そして当日が来る。


 美術室には知らない顔がまた増えている。


「君の噂を聞いて参加希望者が集まったんだ! 上手くいけば部員が増える。飴村君のお陰だよ!」

「どういたしまして」


 嬉しそうな鞍馬先輩にどうでも良さそうに僕は返す。


 内心ではちょっと嬉しい。


 彼女達がどんな風に僕を描くのか、鞍馬先輩の絵が完成する事が、デッサン会の芸術的な空気が、好ましくて楽しくて、ぶっちゃけ僕はハマりつつある。

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