第9話

 イメージ的には文化部のお調子者が学校一の美少女の股の間に頭を突っ込んでるのと同じような構図だ。


 前世は勿論、今世のか弱い男子達だってそんな事になったら声変わりを知らない永遠なる少年の喉で甲高い悲鳴をあげるだろう。


 放課後のちょっと遅い時間なのは幸いだった。


 クラスメイトの男子とバカラブレター品評会をやった後だったので周囲に人の気配はない。


 そうでなかったら鞍馬先輩は早くも形成されつつある僕のファンクラブ的存在に引きずられてボコられていただろう。


「どちら様でしょうか」


 この程度で慌てる僕じゃない。


 むしろ面白い奴が来たなとちょっとワクワクした。


 このまま対応したらどうなるんだろうと普通に会話をする。


「よくぞ聞いてくれた! ボクは――」


 鞍馬先輩は嬉しそうに勢いよく頭を上げる。


 頭頂部がタマタマのすぐ下をかすめて僕のタマタマがヒュンとする。


 中途半端に頭を上げたせいでタマパンに包まれた僕のタマタマがへにょんと鞍馬先輩の熱っぽいおでこに乗っかった。


 これには流石の僕もちょっと意表を突かれて言葉を失う。


 鞍馬先輩もアイスノンみたいにヒンヤリした僕のタマタマを額に乗せたまま硬直している。


 そのまま3秒くらい時が止まる。


 鞍馬先輩のおでこの熱で僕のタマタマがじんわりと温かくなる。


 そして時は動き出す。


「ち、違う!? 今のはわざとじゃなくて――ふご!?」


 僕の膝蹴りを顎の下に受けて鞍馬先輩がひっくり返る。


 この世界のか弱い男である僕にそれ程の力はない。


 痛くなかったわけではないだろうけど、ほとんど鞍馬先輩が自分でひっくり返ったようなものだ。


「イタタタ……」


 仰向けになって顎を撫でる鞍馬先輩の身体を跨ぐように立ち胸元を踏みつける。


「気を付けてくださいよ。男の子のタマタマはデリケートなんですから」


 ムッとして僕は頬を膨らませる。


 この世界の男の子のタマタマは前世のそれと比べ物にならないくらい大きく重い。


 あんな勢いで鞍馬先輩の頭突きをくらったら怪我はしないまでもめちゃくちゃ痛くて悶絶し色んな汁を漏らしていたかもしれない。


 そう思うだけでタマタマがヒュンヒュンするしお腹の奥が冷たくなってキュッとする。


 笑い事じゃない。


「わ、悪かった。この学校始まって以来の美少年、美の男神の寵愛を受け、その化身と言っても過言じゃない飴村君に話しかけると思ったら緊張してしまってね!」


 強気な態度の僕にビビりつつ、鞍馬先輩は僕のスカートの中をガン見している。


 粘液塗れの触手みたいにいやらしい視線が絡みつき僕のタマタマがキュ~っと縮みあがる。


 なるほど、こいつはただのバカじゃない。


 ドスケベなバカだ。


 今世の男の本能が危機感を覚えるけれどここで引いたら舐められるので僕は平気なフリで会話を続ける。


 それに、鞍馬先輩の言葉に嘘はなかった。


 安直で安っぽいお世辞だけど、彼女は本気で言っている。


 だからまぁ、悪い奴ではないと思うし、こう見えて僕は結構単純な所があるので満更でもなくちょっといい気分になる。


「……なら仕方ないですけど。それであなたは?」


 自己紹介の続きを促すと、鞍馬先輩は(当然この時はまだ名前を知らないわけだけど)僕の太ももやタマパンに包まれたタマタマ、ペニソを履いたチンチンやお尻など、普段はお目にかかれない男の子の秘密を網膜と海馬に焼き付けようと必死になってジロジロ見ている。


「えーと、だから、ボクは……」


 必死過ぎて鞍馬先輩の脳のリソースは120パーセント僕の股間を記憶する事に使用され完全に上の空だ。


 こうまで堂々と見られると流石の僕もちょっと恥の心が芽生えてしまう。


 この僕を恥ずかしがらせるなんて!


 生意気な女。


 ムカついて仰向けになってもあまり型崩れしないこの世界の女性の強靭な胸の先を軽く蹴る。


「おほっ!?」


 嬉しそうな鞍馬先輩の反応に完全に失敗だったと僕は悟る。


 今世の女性のおっぱいは前世の男のチンチンみたいな扱いだ。


 性感帯としての性質も強く、前世で言う所の美少女にチンチン踏まれたみたいな感覚なのだろう。


 事実ワイシャツの下で鞍馬先輩の乳首が盛大に勃起している。


 前世の例を出さなくても、どういう意味か伝わるだろう。


「スカートの中ばかり見てないで真面目に答えてくださいよ。じゃないと帰りますよ」

「す、すまない。飴村君が可愛すぎてついね。ははは……」


 さり気なくを装って勃起した胸元を隠しつつ、鞍馬先輩は相変わらず僕の股間に釘づけだ。


 まぁ、男の子の裸にしか興味のないこの世界の思春期女子にこの状況で見るなと言っても無駄なのだろう。


 僕は根負けし、舌打ちを鳴らして鞍馬先輩の上から退いた。


「あぁ!」


 残念そうに鞍馬先輩。


「見世物じゃないですから」


 なんか負けた気がして悔しいのでそのまま帰ろうとする。


「ま、待ってくれ!」


 慌てて起き上がった鞍馬先輩がもどかしそうに胸元を甘弄りしながらついてくる。


「ボクは2年5組の鞍馬絵里! 人呼んでダヴィンチ! 美術部部長さ!」

「部活の勧誘なら間に合ってます」

「そうじゃない。いや! 勿論入ってくれるなら大歓迎なんだけどね!」

「美術部の部長さんが僕に何の用なんですか」

「あぁ! よくぞ聞いてくれた! 飴村君! 君を学校一、いや、日本……世界一の美少年と見込んで頼みたい! 僕の芸術の為に一肌脱いでくれないだろうか!?」


 どんな話だろうとイヤですというつもりだった。


 ムカついてたから。


 直前まではそのつもりだった。


 でも……。


 世界一の美少年と言われたらちょっと気が変わった。


 お世辞だって大真面目にそこまでの事を言われたのは初めてだ。


「……先輩は僕に何をして欲しいんですか」


 悔しさと恥ずかしさを仏頂面で覆い隠し唇を尖らせて下から睨む僕を見て、鞍馬先輩は眩暈でも感じたように大きくふらついた。


「あぁ、やめてくれ! そんなに可愛い顔をされたら本題を忘れてしまう。君に見惚れて頭の中が飴村君でいっぱいになってしまうじゃないか!」

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