第8話

 昔話をしようと思う。


 昔々ある所に貞操逆転世界に生まれた前世持ちの神話的美少年がいる。


 僕である。


 入学初日から僕はモテまくりで、なんならこの高校に進学が決まった時点で噂になっている。


 教室前には連日入れ替わり立ち代わりで一年生から三年生までの女子が初めて地元にスタバが出来た地方民みたいなノリで押し掛けて列を作り僕の美貌に熱狂する。


 一年生から三年生までの男子の多くも気になってそこに混じり押し合いへし合いの中エッチなハプニングが起きたりもするけれどそこは全く本題とは関係ない。


 初日から僕は人気者でクラスのイケてる女子達が大挙して群がり僕と同じクラスになった幸運を新作ゲームの先行プレイ特典みたいなノリで行使して親密度を上げアドバンテージを得ようとする。


 幼稚園に入った時から今に至るまで続く恒例行事なので僕は慌てず騒がずマイペースにいつも通りのミステリアスなダウナーキャラでのらりくらりとそれをかわしつつ意味深な言葉や笑みを浮かべて女子達を一喜一憂させ適当にあしらう日々が続く内クラスメイトもなんとなく僕という人間の表層を理解した気になって熱狂は一旦覚める。


 すると今度は空いた余白に別のクラスの女子が滑り込み同じ事を繰り返して次は上級生という感じで同じ事を繰り返す。


 その過程でクラスの女子の間でヤバい、このままじゃ僕を他の連中に取られるのでは!? みたいな空気が蔓延して熱狂が再燃し教室が混沌とする。


 一週間もしない内に気の早い誰かが僕の下駄箱にラブレターを投函して無視される。僕はその事をクラスメイトにはなし、次の休み時間に入る頃には彼女を作るつもりもなければラブレターを受け取る気もない事が学校中に知れ渡るけどそんな事はお構いなしに僕の下駄箱は郵便受けに早変わりして下駄箱の意味をなさなくなり暫くは隣の男子の下駄箱を間借りする事になる。


 それだって何度も繰り返したよくある事の一つでしかなく、僕はちゃんとラブレターに目を通しつつ個人が特定されない物に関しては知人友人の間で回し読みして字の綺麗さや日本語の間違いや内容の面白さなんかを採点して遊び僕にラブレターを出してもしょうがないという事をハッキリとしたやんわりさで周囲にアピールする。


 おかげでラブレターは数を減らし程なくして僕は隣の男子との下駄箱シェアを終了するけどそれでもラブレターは完全にはなくならずハガキ職人みたいに面白ラブレターを入れる事に熱意を燃やす物好きが一定数残る。


 ラブレターが無意味と分かり直接告白してくる奴が出てくるかと思いきや前世の男子同様に今世の女子も根はシャイな人間が多くそうなるのはまだ先でその数もそんなに多くない。


 そうなる前に女子達はもっと恥ずかしくない口実を使って僕と接点を持とうとする。


 部活の勧誘なんかがその最たる例で、規模の大きな全ての部活は漏れなく僕をマネージャーに誘い僕は気まぐれに体験入部をしたりしなかったりして彼女らをやきもきさせつつ結局どの部活にも入る事はない。


 だって面倒だし。


 僕はやりたい事が沢山あるしなかったとしても部活に入って高校生活の一割二割を一つの部に捧げるつもりはさらさらない。


 野心あるマイナーな部や男女混合の部や部員増加を目論む弱小同好会からも声がかかり気まぐれで籍だけおいて客寄せパンダに寄与したり普通に遊びに行く事もなくはないけど本格的に根を下ろす事はない。


 美術部もその一つで長い前置きをしたのはこの話をする為だ。


 当時美術部は文化部に美術部は必要だろう的な慣例というか空気感で存続を許されていたというか見逃されていただけの弱小文化部で部員は三人しかおらずその内二人は部長が友人に頼み込んで籍だけ置いて貰っている幽霊部員だった。


 部長のダヴィンチこと鞍馬絵里くらま えりは当時二年生で絵が好きというよりは芸術をやっているボク格好いいだろ? 的な軽薄さが透けて見える軽そうな女子だった。


 勿論それは態度とか謎に自信ありげなニヤニヤ笑いとか二言目には芸術がどうしたとか言う割に芸術を餌に男にモテる事しか考えてないのがバレバレな所で、鞍馬先輩(彼女の面白キャラや美術=ダヴィンチみたいな安直なイメージで周りからそう呼ばれていて本人も気に入っている様子だけど僕はダヴィンチ舐めんなって思うのでそのあだ名で呼ぶ気にはなれない)自身はこの世界の平均的な女子と比べるとスラっとしたというかなよっとしたというか頼りない印象の身体つきだけどそれでも僕と比べたら体重は倍以上違う金髪セミロングの大女だ。


 色白で胸は小ぶりと言ってもこの世界基準の話で実際はEくらいはありそうだけど今世女性の爆乳っぷりに慣れてしまうとまぁ確かに小さいかなと言った感じ。


 事実身体が大きいからEカップ程度だとおっぱい感がかなり薄いけどそれはそれで巨女と貧乳というミスマッチさが愛らしくはある。


 前世ではそれなりに特殊性癖を嗜んでいた僕だし、そうでなくとも基本的には女好きだから、鞍馬先輩のビジュアルに文句はない。顔だって普通に整っていてかなり可愛い部類だろう。


 そんな鞍馬先輩との出会いはある日の放課後、唐突に発生した。


「飴村君! 君を男と見込んで頼みがある!」


 僕が一人になるタイミングを隠れて見計らっていたのか、柱の影から飛び出すと鞍馬先輩はスライディング土下座の勢いで僕のか細い両足の間に頭を突っ込んだ。

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