第5話

「飴村ぁ! そういうのやめなさいって言ってるでしょ!」

「てっしー、おはよー」


 と僕はダウナーな感じで挨拶をする。


 今世では全体的にミステリアスでダウナーなビッチキャラで売ってる僕だ。


 てっしーこと勅使河原聖てしがわら ひじりは風紀委員を務める二年生で、僕が不良少年だったり一年の頃に同じクラスだったりで色々接点があり結構仲が良い。今は違うクラスだけど友達と言って問題ない間柄だ。


「おはようじゃないわよ! 今何時だと思ってんの! あんた達も! いつまでも床に這いつくばって飴村のパンツ覗いてんじゃないわよ! さっさと散る!」


 てっしーが怖い顔で命じると三組の女子達は口ではブーイングを鳴らしながらも素直に撤収する。


 てっしーは巨人揃いの女子達の中でも一際大きく胸もお尻も超巨大だ。女子達の間では胸の大きさ=前世のチンチンのサイズみたいな価値観だからその時点で強い。


 その上運動も出来て剣道も習っていてちょっと口うるさい所はあるけれど普通に良い奴だし校内の司法の番人たる風紀委員だから逆らえる奴は少ないしその必要もあまりないくらいには慕われている。


 見た目も美人で前世で言う所の黒髪ロングの格好いい系大和なでしこに八尺様のフィジカルを足したような風貌だ。


「しょうがないじゃん。精理重くて起きれなかったんだよ」


 今はなんとなくてっしーのお説教に付き合う気分じゃないので適当な事を言って誤魔化す。


 字面で察したと思うけど精理は生理の男版だ。


 またの名を睾丸周期と言って前世の生理みたいに月に一度数日から一週間くらい男の体に変調が起きる発情期みたいな現象というか普通に発情期だ。


 精理になると睾丸が猛烈な勢いで精子を作りその結果ホルモンバランスが崩れてお腹が痛くなったり夢精したり意味不明な場面で勃起したり射精したりして普通に最悪だ。


 安易な貞操逆転世界のクソ設定みたいな現象だけど、保健で習った所によればか弱くて少数のヒト雄が常時精子を作っているとエッチのし過ぎ=射精過多で死んでしまうので負担が軽くなるように精理中のみ精子を作るようになったとか。


 それ以外の時はほとんど精子が作られなくて射精は出来るけど精液のみの実質的な安全日になる。


 だから今世におけるセックスは前世程危険視されていない。


 少なくとも女性目線からすれば安全日ならよくない? みたいな価値観が古い世代程強く、女性の性犯罪の多さの理由の一つとか言われている。


 逆に男性は若い世代ほど貞操観念が貞淑よりになっていて、やっぱりそれも女性の性犯罪の多さの理由の一つと言われているし、前世よりも射精に特化した作りというかそれ以外能のない今世の雄が射精する頻度が減った事で精理が重くなったり精理不順に見舞われたり性欲を持て余して若年性鬱になったりとこっちはこっちで色々問題が起きている。


 だったら恥ずかしがらずにみんなバンバンエッチすればと僕は思うけど、前世と同じく今世でも先進国の間でエロ系の規制が強まっていて中々そういう雰囲気にはならない様子だ。


 勿論、その中でも日本はかなりマシというか世界に誇るHENTAI大国である事には違いないのだけど。


 男女比が歪なせいで前世の世界よりも歪みは大きいみたい。


 長くなったけど前世の生理同様に精理はセンシティブな話題なので、大抵の相手はこれで誤魔化せる。変に触れたら普通にセクハラになるし。


 僕にとっては手軽に切れるジョーカーのつもりだったのだけど。


「嘘ばっかり! あんたの精理は来週でしょ!」

「こっわ。てっしー僕の精理周期把握してるの? 普通にキモいんだけど」


 僕が普通の男の子だったら恥ずかしくて泣いてもおかしくない場面だ。


 僕ですらちょっと恥ずかしい。


 それ、ノンデリです。


「そ、それはあんたがいつも同じ言い訳使うからでしょ!」


 だから騙されない為に僕の精理周期を把握していると、そういう理論らしい。


 一理ある。


 でもキモい事に変わりはない。


 まぁ、嘘をついた僕が悪いんだけど。


「はいはいごめんなさい。本当は痴漢されてて遅くなりましたー」

「ち、痴漢!? いつどこでだれに! あたしが見つけ出してぶっ殺してやる!」


 てっしーが鬼の形相を浮かべる。


 こうなるから本当の事を言いたくなかったのだ。


 心配してくれるのはありがとうだけどちょっとめんどい。


「そういうのいいから。自己解決したし」

「いいわけないでしょ!? ていうかなによ自己解決って! あんたまさか、そそそ、そいつとエッチしたわけじゃないでしょうね!?」

「あのさぁてっしー。いくら僕がビッチでもその発言は失礼すぎない?」

「わ、悪かったわよ……。でも、前科があるし、心配じゃない……」


 本当に心から心配そうに僕を見つめると、てっしーは聞いてくる。


「ねぇ、本当になんにもなかった? 怒らないから、正直に教えて」

「なかったってば。しつこいなぁ」

「本当に? あたし達の友情に誓って言える?」


 それを言われると僕も困る。


 僕は嘘つきだけど友情は大切にする男なのだ。


 というわけで僕は口を尖らせて肩をすくめる。


「ほらぁああああ! やっぱり嘘なんじゃない! この大嘘つき! なにがエッチしてないよ!」

「てっしーだって嘘つきじゃん。怒らないって言ったのに」

「怒ってないわよ! 呆れてるの! 何度言ったらわかるわけ!? 知らない人とみだりにパコパコエッチするなって! 危ない目に遭ったらどうするつもりよ!」


 

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