第3話

 お姉さんは必死に隠そうと頑張っているけど、いよいよ現実的になったワンチャンの気配に喜びが隠し切れない。


「おねーさんが二度と僕以外に痴漢しないって約束出来るならエッチしてあげるけど。どうする?」


 小指を立てて尋ねると、お姉さんは馬鹿みたいにパクパク空を食んだ。


 そして絞り出したような声で僕に尋ねる。


「ぃ、いいんですか?」

「約束守れるならね。あと、ホテル代は奢ってよ」

「そ、それは勿論!」

「じゃ、指切りして」

「は、はぃ……」


 これって夢? もしかして私、騙されてる? そんな不安をもろに顔に出しつつも、目の前に突然降ってわいた処女卒業のチャンスに惹かれ、お姉さんはおっかなびっくり大きな小指を僕の小指に絡めた。


 肌が触れる度に一々ビクつく所が可愛らしい。


「ゆーびきーりげんまんうーそついたらアソコに針千本のーます」

「あ、あそこに針千本はエグすぎなのでは!?」

「僕以外に痴漢しなきゃいいんだよ。それとも、僕と寝ておいて他の子に手を出すつもり?」

「と、とんでもない!? ち、痴漢だって今回が初めてで!」

「あははは。声大きいよ」


 お姉さんはギョッとして口を押さえる。


 そして尋ねる。


「ていうか、君には痴漢してもいいんですか?」

「いいけど、今度はバレないようにやってね」

「が、頑張ります!」

「うん。ふふ」


 頑張る所がズレている気がして、僕はちょっと笑ってしまう。


 お姉さんは仮病を使って会社を休み、僕達はそのまま改札を出る。


 飲み屋街だからちょっと歩けばホテルがある。


「でも、君、学校とか大丈夫なんですか?」


 お姉さんは大人の癖におどおどしながら敬語を使う。


 そんな所も可愛らしい。


「そうだった。やっぱりなしで」


 お姉さんがビクッとして泣きそうな顔になる。


「嘘々、冗談。僕不良だから、学校とか別にどーでもいいかなって」


 男が真面目に勉強した所で報われるのは難しい世界だし。


 折角貞操逆転世界で超絶美少年の生まれたので、今世ではこの美貌を武器に好き勝手楽しく生きるのが僕のテーマだ。


「どうでもよくはないと思いますけど……。悩みとかあるなら、その、私でよければ相談に乗ると言うか……」


 一応は大人で女の人だ。


 子供で男の僕の事を真面目に心配しているのだろう。


「余計なお世話。痴漢女に相談するような事なんかないし」

「……ですよね」


 途端にシュンとしてお姉さんが落ち込む。


 僕はそれをニヤニヤしながら見上げる。


「まぁ、優しさだけは受け取っとくよ」

「はぁ……。ダメな大人でごめんなさい……」

「本当だよ。高校生に痴漢して、そのまま誘いに乗ってホテルに行っちゃうんだから」

「うぐっ」


 お姉さんにも女の意地があるのだろう。


 男の癖に、子供の癖に!


 そんな感じで悔しそうな顔をするけれど。


「その通りなので言い返せません……」


 情けない溜息をつくばかりだ。


 それで僕は余計にキュンとする。


 父性本能とでも言うのだろうか。


 僕はダメな女の子がちょっと性癖らしい。


 意地悪したくなると同時に、可愛がって、支えてあげたくなる。


「そんな顔しないでよ。僕がエッチしてあげるって言ってるんだよ? 処女卒業じゃん」

「しょしょしょしょ、処女じゃないですし!?」


 お姉さんが真っ赤になって否定する。


「本当にぃ?」

「ほ、本当です! あ、当たり前じゃないですか! 大人ですよ!」

「ふ~ん。そうなんだ。じゃあ、大人の女の人のテクがどんなものか、楽しみにしておかないとね」

「うっ」


 困り顔で無言になると、程なくしてお姉さんは白状した。


「……ごめんなさい。その、本当は処女で……」

「見ればわかるよ」

「い、言っておきますけど、今どきは大人だって処女は珍しくないんですからね! そもそも男の人の数が少ないし、昔みたいに複数の女性と関係を持ってくれなくなってて!」

「わかってるって。一応僕、学生だよ? そういうの、普通に習ってるから」


 根底が一人の雄を複数の雌で共有する、一夫多妻の亜種のような世界だったのだ。


 今では文化的に成熟して、社会や雄もそういう風土を過去の物として忌避する傾向にあるけれど、その必然として割りを食うのは女性達だ。


 数少ない男が一人の女しか愛さなくなれば当然女余りが生じる。


 少子化とか女性の性犯罪の増加とか、色々問題も起きている。


 まぁ、そのおかげで男は15歳から成人扱いで大人の女性とエッチしても罰せられる事はないのだけれど。


 ビッチだって、前世程悪い印象は持たれない。


 ただ、僕のように能動的に女性を誘惑する男は稀有な存在だ。


「別にいいじゃん、処女だって。僕は嫌いじゃないよ。必死な感じが可愛いし」

「ならいいんですけど、とはなりませんからね?」

「女のプライドに触る?」

「……まぁ」

「じゃあ頑張らなくっちゃね」


 ニッコリ微笑むと僕は足を止める。


「ここにしよっか」


 南国風のラブホテルを前にお姉さんがたじろぐ。


「ビビっちゃった?」

「………………まさか!」


 上擦った声で言うと、汗まみれの手が僕を引く。


 そして僕達はハチャメチャにエッチした。


「どう? 処女を卒業した感想は」

「最高でしゅ……」


 ベッドの上でヒクヒク痙攣しながら、幸せそうにお姉さん。


 これが好きでビッチをやっていると言っても過言じゃない。


「それはよかった。まだ時間あるけど、どうする?」


 だらしない、けれども肉感的で甘い香りのする恵体にスリスリと身体を擦りつける。


 お姉さんはガバっと起き上がり、僕の上に覆い被さる。


 この世界では、騎乗位が正常位と呼ばれてる。


「も、もう一回いいですか!?」

「何度でも。気が済むまでどうぞ」

「ありがとうございます!?」


 血走った眼で言うが早いか、お姉さんが腰を打ちつける。


 恥も外聞もない、獣のような行為で僕を貪る。


 僕の中の男が勝手に喜びを感じる。


 僕も別に嫌じゃない。


 次第に僕はお姉さんが気に入り出す。


 自分が気持ち良くなる事しか頭にない身勝手すぎるエッチだけど、そんな必死さが心地よい。


 誰かに心から求められる事が嫌なわけない。


「ねぇ、お姉さん」

「な、なんですか」

「僕のセフレになる?」

「なります!」


 とある日の、よくある僕の日常だ。

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