第34話 大樹ダンジョン出発前に……
■鹿児島県 沖永良部島(おきのえらぶじま) 大樹ダンジョン前 簡易キャンプ
チームごとにキャンプ内にテントと調理場等が用意され、その中のタープの下で俺達【クレイジー・エクスプローラーズ】あらため、【クラガリ探検隊】はチーム内ミーティングをすることにした。
探検であるならば、事前の体調確認等も含めて済ませておくのが安全な活動の第一歩である。
「一気に登らず、まずは中の状況確認と敵と遭遇したら対処可能かどうかの確認をまずはする」
「そうなんですね? なんか一気に行くとばかり思っていました」
「ある程度慣れた場所であれば大丈夫だが、全く入ったことのない場所は警戒するに越したことはない。急ぐ必要もあるかもしれないが、俺達は俺達のペースでやっていくぞ」
俺の言葉にイカル、織香、トーコの3人は頷いた。
イカルは潜るメンバーではないのだが、俺が必要なメンバーということで小松原三佐に頼んでこちらに連れてきてもらっている。
「僕ちゃんもちゃんとメンバーに入れてもらって嬉しいよ。サグル」
「何かあった時はお前が頼りだからな……」
「縁起でもないことをいうなよ~」
イカルがウリウリと肘を押し付けてくるが、冗談で言ったわけではない。
初めてのダンジョンであり、登る形のダンジョンだ。
エベレスト登頂のように下に落ちて死ぬなどあるかもしれない。
「俺の目標は全員が無事に戻ってくることだ。命を大事にだったか? その方針でいくぞ」
「わかったよ~」
「はい! 頑張ります!」
「なんせ、俺としてはこんな木を登るよりも、周辺にある洞窟へ潜る方がやりたいからな」
俺の言葉にクスクスとした笑い声が聞こえ、緊張していた空気が緩んだ。
いったん解散して、各自が装備の最終チェックをする中で織香が俺の袖を引っ張り、場所の移動を促してくる。
「どうした? 個別に何かあるのか?」
「えっと……こういうのを聞くのははしたないかもしれませんが……サグルさんはどうしてトーコ先生と一緒のホテルにいたんですか?」
「お……む……まぁ、そうだな……」
正直、女子高生にどう話したらいいものかと俺は言葉に詰まってしまった。
だから、嘘ではないが本質からずらした言葉を紡ぐ。
「スキルについての実験をしていたんだ。ホテルにモンスター料理の店があっただろ? それを食べてスキルが手に入るかどうかをな……」
「ふぅーん、それだけで何か二人の雰囲気がよくなったりするんですねー」
じーっとした目で俺を見てくる織香の瞳に疑念が浮かんでいた。
女子高生といっても、
「サグルさんと……そういうことするのは私が一番だと思ったのに……」
ボソリとつぶやかれた織香の言葉は俺の耳に入ってきたが、あえて聞かなかったことにする。
なんとなく、好意を持たれていることはわかってたが女子高生で、しかもチャンネル登録100万人の有名インフルエンサーに手を出すのははばかれた。
「何か言ったか?」
「なんでもありませーん。ダンジョンに一緒に潜れるだけで今は納得しておきますけど……私、トーコ先生に負けないんで!」
「どういう勝負だ、どういう……」
「女としての勝負ですかね? じゃあ、私も荷物整理してきます」
トーコに続き織香もか、どうなるかはわからないが守らなければならない女であることは確かである。
「こんなことを考えるようになるなんて、俺も随分かわったな」
「サグル様、今少しよろしくて?」
俺が一人決意を新たにしていると、今度は迷宮令嬢ことキャサリンが姿を現した。
周囲に女の影がこの一か月で一気に増えたのはなんなんだろうな……。
「なんだ……迷宮令嬢か」
「二つ名ではなく、名前で呼んでいただきたいですわね」
「俺は親しくない人間を名前呼びしたくはないんだ……諦めてくれ」
「まぁ、釣れない方……でも、そこが魅力でもありますわね。本題ですが、急いでこれを作ってもらいましたわ」
そういって迷宮令嬢が見せて来たのは頑丈そうなスコップだった。
鉄でも鋼でもない不思議な光沢をしている。
「まさか、これは……アダマンタイトスコップか?」
「その通りですわ。本社の方に連絡を取って、
うふふふと上品な笑みを浮かべながら迷宮令嬢は俺に寄ってきてスコップを手渡した。
受け取ったスコップは固いが軽く、取り回しがよさそうな逸品である。
「感謝する。これで俺のパーティの生存率がだいぶ上がるはずだ。俺でできる礼はしたいから、何かあれば言ってくれ」
「あらあら、これは素敵な申し出をいただきましたわ。この大樹ダンジョンが終わったら、結婚いたしましょうか?」
「それは死亡フラグになるからやめてくれ」
俺がため息をついて答えるが、迷宮令嬢の目は笑っていなかった。
冗談だよな?
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