第35話 この木なんの木、気になる木
■沖永良部島 大樹ダンジョン 外縁部
太い根を登りながら俺は大きく息を吐く。
ある程度登ったところで、見回せば島の外縁が見える。
「もはや、木登りではなく山登りの気分だ」
「本当ですねっ。ハイキングみたいでちょっと楽しいですけど」
織香はトレードマークのポニーテールをぴょんぴょん揺らして楽しんでいた。
(若いっていいなぁ……)
などと、俺はおじさんっぽいことを思ってしまった自分を悔いる。
「敵襲! 総員戦闘態勢!」
斥候として先頭を進む自衛隊のダンジョン攻略チーム【Dフォース】の隊員達が銃を構えた。
ダンジョンで銃火器が効くのは浅い階層だけで、上に行くほど表皮が固くなるのかただの銃では勝てなくなる。
なので、序盤の牽制と制圧にDフォースの面々は銃器を使っていた。
「三点バースト、斉射!」
先から降りてきていたトレントという木の人形を撃ちぬく。
バラバラになったトレントから魔石を回収しつつ、一行は先に進んだ。
さすがにこの木片を食べる気はしないが、いざという時のために俺はドロップアイテムとして残っていたトレントの樹皮を〈収納〉にしまう。
「備えあればなんとやら……っとな」
「この先に樹木の中に入る穴があるそうだよ~。そこがセーフエリアだからいったん休憩だろうねぇ~」
「なるほどな、フォーメーションはこのままが一番安全だからか?」
「あとは、ワタシの
「なるほどな」
山道のような根の上を歩きつつ、俺はトーコと話を続ける。
本当は俺も
入手経路を聞かれても非常に困るし、トーコの持っているスキルは俺もすでに持っているものばかりなので、通常スキルを得たことにする方がいいというのがトーコの意見である。
「ワタシがいなくなっても、キミがいれば大丈夫となっただけ、気楽だよ~」
「おいおい、縁起でもないことを言うな……」
小さな声で寂し気なことをいうトーコの頭をワシワシと撫でた。
動物みたいな扱いだが、俺としては好意の現れでもある。
それをわかっているトーコや織香は文句を言うことなく撫でられることが増えた。
「なんですかー、二人してイチャイチャしないでくださいよ」
俺とトーコのやり取りを見ていた織香はむっすーと頬を膨らませて拗ねた様子を見せる。
:俺達は何を見せられているんだ
:スコップ師匠! そこを代われ!
:いくら徳を積めばこんな甘々な状況を送れるんだ、教えてくれゴヒ
と、そんな俺達の空気を壊すようにコメントが流れてくるのが見えた。
配信していたのをすっかり忘れていたので、なんとも言えない微妙な空気が流れる。
「あー、まぁ、安全第一で仲良く登ってる、ぞ?」
:はぜろ!
:はぜろ!
:はぜろ!
:何がとは言わないがもげてしまえ!
なんとかコメントを絞り出したが、そんな俺に向けられたのはリア充に対する呪詛に近い言葉の嵐だった。
俺がリア充側に回るなんて、1か月前までは考えられなかったなぁ……。
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