曖昧な季節

梣はろ

夏と秋

「ねえ、どっか行きたいところある? それとももう帰る?」

「どっちでもいい。姉ちゃんの好きにして」

 姉の夏は最近、運転免許を取ったらしい。お盆に入り、地元を離れた大学から帰省してきてすぐに、はしゃいで俺をドライブに連れ出した。

「えー、決めてくれないと困るよ。私、優柔不断だしー」

「それ自分で言うの?」

 俺の方が、もっと優柔不断だ。何か意見を聞かれても、いつも今みたいに曖昧に濁してしまう。

「うわ、交差点通り過ぎちゃった。じゃあこのまま適当に進んじゃうね。面白そうなのあったら止まろうか」

「わかった。……あ」

 そして俺は、「優柔不断」と「愚か」は同じことなのだと、この後思い知る。

「どうしたの? 何かあった?」

「……いや、別に」

 姉がブレーキを踏み、車は少し減速した。それが、いけなかった。

「きゃあ!」

「……え?」

 突如、右車線から、4tトラックが急接近してきた。何が起きたのか、理解できなかった。

 ――静寂と、苦しくなるほどの蝉時雨。

 大切な人を、失った。

 俺のせいだ。

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