煙草の灰

「よいしょっと」


 私は腰を下ろした。


「ああ、くたびれた」


 ポケットをさぐり、煙草とライターが入っていないかを探してみる。果たしてそれはズボンの後ろポケットに入っていた。


 箱はくしゃくしゃになり、煙草が少しくたびれてしまっている。こんなものでも無いよりはましだと、私はそれを口にくわえ、火をつけた。


 しばらく、のんびりと煙草を吸う。先端からくる熱と煙が私の顔をあたたかくする。


 これからどうしようか、と私は考えるともなく考えた。すでに辞表は提出してしまった。受け取った上司の顔といえば、なおざりのねぎらいを口にするばかりで、ちっとも心はこもっていなかった。近頃はこういう退職が増えているのだそうだ。上司も強いては私を止めようとしなかった。


「これからどうしようか」


 私はぼんやりと考えるよりほかはなかった。どうにも今の状況に、現実感を持てないでいる自分がいた。



 煙草の灰が、自分の重みに耐えきれず、ぽとりと地面に落ちた。

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