大輪

「お疲れさまでございました」


 ここはどこだろう。気付くと私は、どこか知らないところにいた。後ろから声をかけてきた初老の男性の手には、大きな花束が握られている。


「いや、ええ、これはどうも」


 へどもどしながら、渡された花束を受け取る。くたびれたスーツに似つかわしくない、大輪のバラだ。


「あなたはよくやってくれた。これはほんのお礼です」


 男性はこれまでの来し方を思い出すように、目を細めて言った。


 そう言われては返すわけにはいかない。私は受けとった花束を、胸元に引き寄せた。ふわりとしたいいかおりが顔のあたりにのぼってくる。


「寂しくなるでしょうな」


 誰に言うでもなく、男性は呟いた。


「ここからは、私たちが頑張る番です。あなたはあなたで、しっかりおやりなさい」


 私は肩に手を置かれた。静かだが、力強く芯のある声だ。


 体の中には、置かれた手から何かが伝わるように、あたたかい熱が満ち満ちてきた。


 男性は、いつのまにか遠くなっている。




「それでは、ごきげんよう!」




 振り出された片手が、サッと高く上がった。

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