第15話

 夜は悶々とする。

 好きになっちゃダメな人を好きになった。同性ってのは気後れする理由にはなりえない。多様性の時代。アブノーマルがノーマルに変化しつつある時代。同性を好きになることは許容される時代になった。もちろん強要はしちゃまずいけど。


 毛布の中でもぞもぞ動く。寝返って、毛布を巻き込むように膝を抱えながら丸まって、んーっという声にならない声を出してから、ピンッと足を伸ばし、パタパタ動かす。

 あずねぇに頭を撫でられたことを思い出しただけで、悶絶してしまう。

 バタバタ動いていないと身体の中心から爆発してしまいそうだった。爆発して、ちりちりになって、灰になって、そのまま消えてなくなってしまうような気がした。

 だから動いて気を紛らわせる。


 「どうしよ」


 すーはーすーはーと深呼吸をしてから私はぽつりと呟く。

 呟いた言葉は部屋の中で溶けるように消えていく。


 頬が火照る。

 熱を帯びた頬を触って、かもしれないが、そうだ、に変わる。疑心が確信へと変わった瞬間であった。


 「好きすぎじゃん……私」


 前髪を上げて、額に手のひらを当てる。

 芯から熱い。

 熱くて、熱くて、熱い。


 恋をするってこんなにも心躍ることなんだってワクワクする。

 恋をするってこんなにも苦悶することなんだってズキズキする。

 恋をするってこんなにも興奮することなんだってドキドキする。


 恋焦がれた。




 世の中不思議なことだらけだ。

 ダメだって意識すると、その気持ちはより一層大きくなる。ダメなのに。不思議。


 好きになっちゃダメって思うと、より好きになる。

 気付かなければきっと良かった。そうすればこうやって想いが肥大化することもなかったのだろう。

 でも過去には戻れない。

 やり直せない。

 だからもういつ爆発するかわからないこの爆弾を必死に抑え続けなければならない。私にできるのはそれだけ。この気持ちを無に返すなんてことはできないから。


 と、起床して早々考える。

 窓の外から聞こえる小鳥のさえずり。

 心地良さは一切ない。鬱陶しいと思う。


 ぐーっと背を伸ばす。

 それからゆっくりとリビングへと向かう。

 部屋の扉を開ければ、味噌汁の香りが鼻腔を擽る。

 脳裏に過ぎる、あずねぇの顔。

 頬か緩む。

 そしてお父さんの顔が過ぎって、今度は顔を歪ませる。


 私はあずねぇの娘。

 恋をして良い相手じゃない。

 恋をして許される相手でもない。

 叶わぬ恋。

 私の中でゆっくりと消化させなければならない恋。


 「あずねぇおはよう」


 キッチンに立つあずねぇに対して、私は今できる最高の笑顔で挨拶をした。

 想いが加速する。

 走る。膨張する。


 どうしよう。


 好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き。


 好きが溢れる。

 心のコップから溢れる。

 止められない。元栓を閉めても注がれ続ける。


 ダメ。


 もう一人の私がそう叫ぶけど、大暴れしている私はその声を聞き入れない。


 「あずねぇ。私、恋した……」


 パジャマの袖口をギュッと掴み、唇を噛む。

 目元に力を入れて、ぐっと睨むようにそう告げた。


 おさえつけた気持ち。少しだけはみ出てしまった。

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継母は五歳年上の幼馴染〜継母とはいえ母に恋するのはマズイですか〜 こーぼーさつき @SirokawaYasen

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