第2話 俊英会①
「よお、待ってたぞ」
「待ってたぞって、先に入っていれば良いだろうが」
「何を言ってんだ、お前がいなければ、始まらんだろ」
「俺なんか、たかが4番目だろうが」
「何を言う。俺達4人は、俊英会の頭脳。4人揃ってこそだ」
「そうだぞ、さすが将久だよな」
「私は、橘先輩と一緒が嬉しいですけど」
「そうだよな」
「はいはい」
こいつというか、LINEで俺に声をかけてきた奴の名は源将久。俊英会のリーダーだった。そして、藤原維新と、九条憲子そして、俺、橘由人のこの4人で、頭脳だそうだ。
俊英会は、かつて高校時代に将久が始めたグループの名だった。その俊英会は、簡単に言うと、全国の生徒会を集めて、それぞれ激論を戦わせて出来上がった。エリート集団の名前だった。
そこで、意気投合して、仲良くなり、まあ、将久に引っ張られるように、トップ4人と呼ばれているのが俺達だった。
その後、大学でも交流があって、大学を卒業後、それぞれの社会生活を送っていた。
そして、その多くが一流企業、あるいは官僚となり、出世していた。
そして。皆がアラウンド40になったこの時期に、何を思ったのか、将久が次の衆議院選挙に打って出ようというのだった。
で、俊英会から国会議員になっているやつもいた。だが、既存の政党から離党したうえで、新たに選挙戦に立候補を表明するそうだった。本当かよ? こいつのカリスマ性半端ないな〜。
「まあ、それよりも入るぞ」
「おう」
俺達4人は、某高級ホテルのパーティールームに足を踏み入れる。
ガヤガヤガヤガヤ、シーン。
まさしく、俺達が足を踏み入れた瞬間、飲み物片手に、それぞれに数人で集まって談笑していたのが、ピタリと静かになり、皆の視線がこちらに向く。
すると、将久はパーティールームに作られた壇上に俺達を引き連れて上がると、マイクを手に取った。
「みんな、良く集まってくれた。急な呼びかけなのに、ありがとう」
すると、会場から。
「当たり前だろ〜」
「仕事をなげうってでも来るぞ」
とかの声が上がる。それを軽く手で制しつつ。
「まあ、今日は、決起集会という感じで、難しい話はするつもりはない。簡単な食事や、酒も用意したから、旧交を温めつつ、楽しもう。では、乾杯だ」
すると、ホテルのスタッフの方々が、シャンパングラスに入ったシャンパンを持って出てくる。
俺もシャンパンを受け取ると。
「じゃあ、行き渡ったな。俊英会に、かんぱ~い」
「かんぱ~い」
こうしてパーティーが始まった。
俺は、立食パーティースタイルで、料理を少し皿に取ると、バーカウンターに行き、ワインを頼み、飲みつつ壁の一角に開いてるスペースを見つけ、スモークサーモンやら、カルパッチョをつまみつつ、白ワインを流し込む。さっきのシャンパンもそうだが、結構良いものだよな〜。
とやっていると。
「ああ、いたいた。橘先輩」
「昔は可愛いアイドル的存在だったんだが、すっかり、おばさんに……」
「橘先輩、心の声がダダ漏れですけど。それに、何ですかひどいですよ〜、橘先輩。まだまだ外見はいけますよ〜」
プンプンという感じで、九条憲子が俺の言葉に反応する。いまだに、動きが可愛らしい。あざといというのだろうか?
「可愛いな」
「えっ、やめてくださいよ、橘先輩……。もう!」
「痛っ!」
俺は、九条憲子にパシッという感じで叩かれた。スナップが効いて結構痛い。
「で、なんか用か?」
「なんか、用か? じゃありませんよ。橘先輩の意見を聞きに来たんです」
「んっ? なんの?」
「なんのじゃなくて……」
九条憲子は、バタバタとなんかじれったそうな感じでやっていた。
「可愛いな」
「な、な、な……。それよりもです。橘先輩も、リベラルじゃないですか。」
「ああ、そうだが」
「今回の俊英会の出馬する意見どうするのかな〜って?」
「う〜ん、そうだな」
俺は、少し考えて。
「4人で話し合うんじゃないのか?」
「まあ、そうですけど」
「まずは、昔思い描いてた、理想国家は無理だな。予算が足りない」
「はい。そうですよね」
だけど、世界的には唯一の成功した社会主義国家が日本だ。教育の機会がおおむね保障されており、大卒で会社に入れば、だいたい皆同じくらいの給料からスタートする。日本では正社員ならそうそうクビになることはない。
医療費が安いため、病気になれば貧しくても医者にかかれるし、スーパーやコンビニ、ファストフード店も多いので、食べ物も割と安価に購入できる。それに働けなくなれば、「傷病手当金」「自立支援医療制度」「障害年金」「失業手当」「労災保険」「生活保護」など、とても充実している。
そして、これを維持していくのにもお金がかかる。
「まあ、理想的には、国家財政を安定させつつ、現状の福祉体制を維持する。これじゃ、俺達の考えが保守だけどな」
「まさしく、保守本流ですね」
「ああ」
なんて話していると、もう一人寄ってくる人間がいた。
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