13話 蛇と蜃気楼 1/1
板張りの剣道場に俺とリコが立っている。リコは白い剣道着、木刀を上段で構えている。流石に長物を振り回す関係で眼鏡は外している。眼鏡を外してどれくらい見えるのかは知らん。防具を装着していないのは、能力の関係で金城鉄壁の防御だからだ。
剣道場で向き合うならということで俺も一応剣道着に着替えた。
「やらなきゃダメか?」
「相手が例え女子供、可愛いお嬢様だとしても剣を振るえるようになれ!!」
リコは自分のことを可愛いと思っていることが分かった。まあリコの言うことにも一理あるか。
どうしてこうなっているかというと、前にマイスター・アイオーンとかいう白い仮面バトラーと戦って見逃された。それじゃあダメだと思い、技能を上げることにした。
俺の剣術は全部我流なので、一回リコから指南してもらうことにした。
そしたら破嵐の屋敷……の敷地内にある剣道場に連れて来られた。
指導を受けるって斬り合うことじゃないだろ。なんかこう……フォームの修正とかされるものかと思って……リコに剣を向けるのは気が引けるな。
「父上は今日不在だ。存分に試合おうぞ」
リコは
「……装着ッ!」
赤いレンズをかけ、仮面バトラーレンズと成る。
俺の剣術はタイムレンズや強化スーツによる強化込みだ。ただの人間相手に打ち込むにはあまりにも強い。豆腐を切るように人体が裂ける。
「抜刀」
黒く輝く剣を振るう。前の
俺の居合がリコの木刀に弾かれる。俺の剣が弾かれるとはな。実力はリコが数段上というわけか。
弾かれて体勢がやや崩れ、その隙に突きが喉に刺さる。強化スーツが衝撃を吸収するのでそんなに痛くないが、生身で受ければ死んでいただろうな。
「
「うっす」
それからひたすらリコの木刀で全身を打たれた。籠手、胴、面、内もも、当たっていない場所がない。動きが心を読まれているように打たれている。というか真剣と斬り合ってなんで木刀がもつんだ?『斥力』か。実際には木刀に触れていないな。
「
リコの木刀が俺のレンズを擦る。
「わからないな」
紙一重で回避できるようになってきたが、言語化できない。俺が俺の身体を理解したのか?いや違うこれはすでに理解していたこと。この身体は従順な
ならば剣術、これも違う。俺の剣術はまだ荒削り。ちょっとやそっとの時間では効率化はされない。
木刀と剣がその決して溶け合わぬ境界線をお互いになぞる。
目の前にリコという俺のお嬢様がいるのに、別の相手のことを思い出す。記憶の扉から何かが見える。
『斬り合えば相手のことも見えてくるけれど……残酷よね。剣は人の命を奪う道具なの。理解した相手の。貴方もそうは思わない?
白い強化スーツに赤い結晶装甲、そして白いシルクハットに黒い髑髏のような仮面。マイスターの姿と声。俺はかつて『組織』にいたとき、マイスターから剣術の指南を受けたことがあったようだな。何か待望の者を見るような熱の籠った視線だったことを思い出した。
つまり俺は剣を通して、リコのことを理解したのか?わからん。
「なあ?お前は俺のことが
振り下ろされた木刀の切っ先と俺の剣の切っ先が足元で絡み合う。相手が斬り上げるより早く、俺が斬り上げれるか。それも正直分からない。
剣は筋力のみにて振るものじゃねえからな。
リコは長時間の戦闘で滝のように汗を流している。俺は強化スーツで体温調整しているので発汗は然程ない。
「
いいや違うんだ。俺はたぶん酷い奴なんだ。だけどわざわざ言うことでもない。俺だけが知っていれば十分だ。他人に酷い奴と思われるのは嫌だから。
「何を今更。俺は、お前も
「マサト」
熱っぽい目線。昔、こんな目線で見られたような気がするな。さっき戻ってきた記憶の中のマイスターの目線か。相手が俺をどう思っているくらい分かる。
「仮面バトラーとしてな」
体重七十キロくらいの俺が宙に浮く。リコの肉体の何処にそんなパワーがあるのか。尋常じゃないパワーで顎を斬り上げられて、剣道場にぶっ倒れた。何か間違ったか?
確かに俺は予防線を張った。口から不純物のような言葉を吐いた。だが、仮面を被れば、もっとマシな人間で居られる。本当の俺は大した人間ではない。
「
わからん。自らを傷つけるあらゆる事象を遠ざける能力『斥力』、それはつまり実質的な攻撃の反射能力であり『殺意』を相手にそのまま返す能力だ。
何があったのかは知らんが、己の殺傷能力に敏感なお前が、わりと無理して稽古をつけてくれたのは理解している。
それ以上のことはわからない。ことにした。
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