13話 蛇と蜃気楼 アバンタイトル
『組織』の息のかかった病院が都内にいくつかある。その中には人体実験や研究に使用されるものがあった。
都内某所。曇り空の暗い個室で、情報屋――
「おはよう。
傍らには黒い長髪を後ろでまとめ、カーキ色のスーツ姿の女がいる。エージェントチーフ・ヒュドラである。
「あら?私のことをコードネームで呼ばないの?」
「堅いことはいいだろ」
そう言うとヒュドラは情報屋の検診衣を弄り、腹部を露出させる。腹部には結晶質の眼のようなものが移植されていた。
「やめて、私にはカゲロウくんが……」
「ふざけるな」
情報屋は犯されると思ったわけではなく、ふざけていた。仮に犯される場合でも抵抗の備えと硬い意志が情報屋にはあった。
「第三の眼が無事定着しているな。では眼の機能説明をしよう。技術的なことはヒカリの方が得意なのだが……」
ヒュドラは組織の実質的な指導者であるマイスターのことを名前で呼ぶ。お互いにコードネームで呼び合うよりも本名で呼び合った時間の方が長い。ヒュドラはマイスターに歯向かうつもりは一切なかったが、コードネームについては気恥ずかしい気持ちやくだらないという気持ちが強かった。
とにかくヒュドラは情報屋の腹部に移植された赤い結晶質の眼を見て、良しとした。
「基本的に眼の機能はシンクロ・ハーモナイザーと同じだ。タイムレンズとその装着者の適合値を調整する。200まで上げられるだろうがオススメはしない。確実に死ぬか死ぬより酷いことになる」
第三の眼を移植した実験体で適合値の上昇実験が行われ、スーツの中身が挽肉になった。というレポートがヒュドラにも回ってきた。詳しいところはマイスターやテンペストの方が詳しい。
「ねえ、それって説明の必要ある?」
「ないな。では、本社では話し難いことを話そう。入れ」
個室のドアをスライドさせ、一人の男が現れた。黒髪を長く伸ばし、赤い眼鏡を掛けている。白いスーツに白いシャツ、その中でネクタイだけが赤い。
「うわっ、ホワイトくんじゃん」
情報屋は顔を
「嵐の王よりマイスター・アイオーンの守護を任されるも、大陸に遠ざけられたエージェント・ホワイトでありまする」
大仰な自己紹介をホワイトはした。無意味に芝居がかった振る舞いは人から決して好かれてはいなかった。
「そこまで自己紹介しないでも
ヒュドラはホワイトに話を促す。
「ここで
ホワイトは仮面バトラーレンズを捕獲しようという提案を二人に持ちかけた。これまでテンペストやヘイズは始末を主張し、行動してきたが、それとはいかに違う方針なのか。
「たぶんマイスターは許さないんじゃない?社長が帰還するその日まで好きにさせるでしょ、マサトくんのこと」
情報屋は今となっては遠い昔、ワイルドハント社の社長にして嵐の王と交わした契約を思い出す。あれから長い年月を過ごし、組織の内部事情はよく理解していた。
「もちろんでありますとも!我らの偉大なる
ホワイトの過剰な言葉の装飾には、心にも思っていないことを話すもの特有の軽薄さがつきまとっていた。
「
「ヒュドラちゃんは本当にそれでいいの?」
「ああ」
情報屋は長い付き合いで、ヒュドラもマイスターに負けず劣らず嵐の王を慕っていることを理解していた。だからこそ情報屋は今では仮面バトラーレンズを名乗る乾マサトに対する感情が理解できた。
「
いつのまにか時間以外何も含まない赤いレンズがホワイトの掌の上にあった。
「王へと至る運命を含んだレンズならば、もしやあるいは必ず我らの叶わぬ願いを叶える導きとなりましょう。
「……私はマイスターにこの話を伝えない。今はその程度しか手伝わない。技術系の人が言うなら飛びつくけど、ホワイトくんは技術系じゃないでしょ」
「今はそれで結構。では始めましょう!」
病室の中でホワイトは一際声を張り上げる。
「我らの同胞たる数多の時間怪盗と仮面バトラーの屍を積み上げ、王へ至らんとする彼の者、仮面バトラーレンズを狩る、王狩りを!!」
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