12話 百足と黄金 1/2 ※スキップ可

 都内某所。料亭の一室に二人の男女が居た。二人はお見合いということでこの一室に足を運んだが、今はデュエリストとして相対している。


「この十円玉の平等院鳳凰堂が描かれている側を表とする。私は表。君は裏だ」


 黒いサングラスで目元を覆われた男、草加タクミは十円玉を親指で弾いた。十円玉は真上ではなくテーブルを挟んで向かいに座るウイヒメに向かって飛ぶ。

 

「残念」


 ウイヒメは飛んできた十円玉をキャッチする。掌を開く。十円玉は表を上にしていた。


 二人はトレーディングカードゲーム『MaKマジックアンドナイツ』の対戦を行おうとしていた。一般的にこのゲームのプレイヤーをデュエリストと呼称する。

 デュエリストは各自四十枚以上のデッキを持ち寄る。今回はウイヒメが持ってきたスターターデッキをそのまま使用することになった。

 まず二人のデュエリストが任意の方法で先攻後攻を決める。今回はコイントスであったがジャンケンの場合も多い。先攻か後攻かはこのゲームの勝敗に大きく影響する。

 各自は自分のデッキから五枚のカードを引き、これを初期手札とする。


「私のターン、先攻なのでドローフェーズを飛ばす。『死機ピアニッシモ』を通常召喚。『死機ピアニッシモ』の効果でデッキから『死機フォルテッシモ』を手札に加える。場に『死機』歩兵ポーンが存在する場合、『死機フォルテッシモ』を特殊召喚する。魔法カード『死機再演』を発動する。『死機ピアニッシモ』を墓地から特殊召喚し、デッキから一枚カードをドローする。『死機ピアニッシモ』の効果で『死機フォルテッシモ』を加える」


 草加が使う『死機』スターターデッキは『死機』の名称を持つ歩兵ポーンカードや魔法カードをデュエリストが使役する。


「草加さん、二枚目の『死機フォルテッシモ』を手札に加えたのはミスですよ。『死機フォルテッシモ』の特殊召喚効果は一度しか使えない。別の『死機』歩兵ポーンを手札に加えるべきだった」


 『死機フォルテッシモ』の効果は一ターンに一回しか使えない。『死機』歩兵ポーンには緩い縛りで自己を特殊召喚するものが多くこれは草加のミスであった。


「ミスったか。だが展開を巻き戻すのも面倒だ。このまま進む。魔法カード『死機合奏』を発動する。手札の『死機フォルテッシモ』と『死機トレモロ』を墓地に送り、デッキから『死機轟神オーケストリオン』を特殊召喚する。『死機轟神オーケストリオン』の召喚時効果で『死機』魔法カードをデッキから手札に加える。私は『死機合掌』を手札に加えた。そして君は手札を選んで捨てる」


 『死機』デッキは状況に応じて各種『死機轟神』を特殊召喚することを目的としている。

 例えば『死機轟神オーケストリオン』は高い攻撃力だけでなく、デッキから『死機』魔法カードを加え、相手の手札を選んで捨てさせる効果を持つ。


「ありがとう助かった。魔法カード『夜の帳』を捨てる。『夜の帳』は墓地で発動する効果がある。このターン、お互いに特殊召喚できない、だ。この効果を発動した『夜の帳』はデッキに戻る」

「だが、私の勝利は決まった。『死機合掌』で場の『死機』歩兵ポーンの攻撃力は足される。君のデッキのカードに『死機轟神オーケストリオン』を超えるものはあるか?」


 先攻である草加はこのターン攻撃できない。


「まだだ。僕のターンドロー。魔法カード『灼獄の蜘蛛の巣』を発動する。『死機轟神オーケストリオン』の攻撃力分のダメージを草加さんは受け、『死機轟神オーケストリオン』は手札に戻る。魔法カード『灼獄の蜘蛛の糸』を発動する。僕はデッキから『灼獄の蜘蛛』を墓地に送り、魔法カード『灼獄の日輪』を手札に加える。『灼獄の日輪』を発動する。お互いの場のカードを全て墓地に送る。お互いはお互いの場から墓地に送られた歩兵ポーンカードの攻撃力分ダメージを受ける」

「負けた」

「『MaKマジックアンドナイツ』は高速で決着がつくのがいいんですよ。もう一試合しましょう」


 そうして本日のお見合いデュエルはウイヒメの一勝二引き分けで終わった。







 

 

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