11話 蛇と蜘蛛 2/2

 料亭の二階の個室に三人の男女が居た。

 二人は畳に座り、テーブル越しに向かい合っている。一人は腕時計でしきりに時間を気にしていて、入口の近くに立っている。

 女、いや十数才ほどの少女は紫色のハイウエストスカートに白色のカーディガン。

 少女と対面に座る男は、隻眼で失明した側の目に大きな切傷の跡が残っている。黒いワイシャツの上に、紫と白のストライプのジャケットとベストを着て、同じ柄のパンツを履いている。

 入口近くに立つ男が言う。


「俺は仕事があるので帰らせてもらう。帰りはあの男乾マサトを呼んで車を出してもらえ」

 

 そう言うと男は個室から出て行った。男は破嵐レイイチ。破嵐財閥のトップとして忙しい立場であった。

 個室には二人だけが残された。


「本日はお日柄もよく……こんなこと言うのは私のガラじゃないな。率直に行く」

「草加刑事、お見合いに率直も何も無いと思いますが……」

「なんだあの男の態度は?あれがお見合いをセッティングした側の態度か?」


 草加はレイイチのウイヒメに対する態度に不審感を抱いていた。草加は祖父に呼ばれてきていたが、そもそもこの見合いを草加の祖父に持ちかけたのはレイイチの方だった。

 草加の祖父は、自らの孫が三十間近にして未婚という状況に危機感を抱き今回の話に乗った。


「レイイチ伯父さんは僕に対して興味がないけれど、僕の死んだお父さんに対する当てつけで僕の世話を焼いているので……僕としても本当に迷惑していますね」


 ウイヒメはレイイチのことを概ね理解していた。レイイチは、家を離れ好きなように生きていたウイヒメの父であるレイジとの間に一方的な敵意を持っていた。

 レイジが死んでからはウイヒメが敵意の矛先を向けられていた。つまり、レイジの大切にしていた愛娘に自分の都合を押しつけれることができ、かつ破嵐の家にメリットがある手段としてお見合いを持ってきただけなのだ。


「では適当に雑談して終わらせるか。私も仕事がある」

「いや、せっかくだし遊びましょう」


 ウイヒメはテーブルの上に何処かから取り出した小さな紙製の箱を二つ置いた。


「なんだこれは?」

「大人気トレーディングカードゲーム、『MaKマジックアンドナイツ』のスターターデッキですよ。いきなりミラーマッチじゃあ味気ないのでお互いの別種類のデッキでやりましょう」


 お見合いはトレーディングカードゲームの決闘に変わった。


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