10.5話 パンケーキとコーヒー
午前六時、開店前の『
マイスターは店側ではなく、居住空間に繋がる玄関のインターフォンを押した。
「
マイスターはインターフォンに向かって厚かましい要求を口にした。
「しょうがないですねー」
『
「上がってください。どうぞ」
「あら?私をここに上げていいの?プライベートの空間でしょう?」
店を開けて欲しいと言ったのはマイスターだったが、流石にプライベートの空間に上がるのは気後れするという感情があった。
「開店時間より前に表のシャッター上げるのも面倒ですから」
そう言いながら、情報屋はダイニングテーブルとセットになった椅子を引く。木製のダイニングテーブルは置かれて久しく傷も多い。
マイスターは椅子に座る。
「ホットケーキが食べたいわ」
マイスターは完全に朝食でホットケーキを食べる舌になっていた。なければ粉を買いに情報屋を走らせるつもりで居た。
「承知いたしました。ところで傷は治さないのですか」
情報屋はそう言いながら、ブラックコーヒーをマイスターの前に置く。ミルクも砂糖も入れるかどうかはマイスターの裁量に委ねるようだった。
「そうね。右手が上がらないとご飯が食べにくいわ」
マイスターは血で赤く染まったハンカチをテーブルの上に置いた。
「装着」
マイスターが装着しようと思うと、赤いレンズが現れる。乾マサトと同じように装着しようと思えばタイムレンズが何処かから出てきて装着される。
「時間逆行」
赤いレンズが赤く光る。マイスターの時間が巻き戻り、腕の傷も白衣の破損もハンカチも元に戻る。
「どうでしたか?仮面バトラーレンズは?」
情報屋はマイスターに背を向けて、キッチンのガスコンロでフライパンを温める。フライパンの上ではホットケーキになろうとする生地が熱せられていた。
「仮面バトラーレンズ、その名はレイジのかけた呪いだけれど、道は私の
乾マサトがお嬢様を
マイスターは社長の背を思い出す。ずっと昔、この世で初めてタイムレンズを用いて仮面バトラーになったその姿を。白い強化スーツに赤い結晶装甲、そして首には赤いマフラーがたなびいていた。
仮面バトラーはこの世界に社長しか存在しなかった。
社長は行方不明になる前、ワイルドハント社の社長室の机に赤いマフラーとタイムレンズを置いて去った。それ以来、マイスターは長い間、社長の代わりをしている。
「王が帰って来られたのならば、王の器をどうするおつもりですか?」
乾マサトは王の器。社長があまりにも長く帰って来ないがため、マイスターに選ばれた王にならんとする者。一つの王国に王は二人いらない。
社長は行方不明であれど、そう簡単に死なない。いつか帰ってくると彼を知る者は信じていた。だが、長い年月は信じる心を曇らせ、疑念は目を眩ませた。
「……私が砕く。私の
マイスターは社長を愛していた。長い年月の中で社長の心は誰にも理解ができなくなっていたが、それでもマイスターは社長を愛していた。向日葵が太陽の輝く方向へと花を向けるように。
二人が話しているうちにホットケーキが焼き上がる。
「けっこういっぱいできちゃいました。全部食べれますか?」
「
「まだです。さっき起きたばかりなので」
「一緒に食べましょう」
マイスターは朝食に情報屋を誘った。人の家に上がり込み家主のように振る舞っている。
「スマラッパギ……げっ!なんで貴方が!?」
薄羽刑事も起きてきた。寝間着姿で寝ぼけていたが、マイスターを見てすぐに目を覚ました。
「カゲロウも座りなさい。私と朝食を囲むことを許す」
マイスターは勝手に椅子を引き、薄羽刑事に座るように指示した。
薄羽刑事は忙しくない日は情報屋の家に戻ってきている。
翼竜とマイスターの連戦で草加タクミが倒れたことについて、薄羽刑事の中では忙しい内に入ってなかった。
「いただきます」
それぞれの目の前にはメープルシロップがかかったホットケーキの皿があった。
「美味しいわね。リコの焼いてくれたホットケーキとは味が違うけれど」
マイスターはホットケーキに更にチョコソースをかける。
「あー。粉が違うからじゃないでしょうか?誰が作ってもホットケーキの味はそう変わりませんよ」
「そうかしら?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます