7話 お嬢様と企鵝 1/2
「けっこうあるね」
「早めに気づけて良かった」
俺たちは破嵐探偵事務所内に仕掛けられた盗聴器を撤去している。探偵が盗聴されているなんて外聞が悪過ぎる。犯人は警察に突き出さないとならん。
気付いたのは偶然だった。盗聴発見器の電池を新しいものに入れ替えて、電池の確認で動かしたら盗聴器が仕掛けられているのに気づいた。
そんなことでもなきゃ気づかない。
「監視カメラ仕掛けた方がいいかもな」
事務所に監視カメラは設置してないので犯人の手がかりはない。あとで監視カメラ買ってきて二度目に入ってきたところを捕まえる。我々の事務所を狙って仕掛け、バレたことに気づいたなら何らかのアクションに出るはずだ。アクションに出ないなら捕まえる糸口がない。
「うん」
盗聴器の件は継続して落とし前付けさせるつもりでいるが、俺が情報屋のカレーを食べたくてうずうずしているので昼は情報屋に行く。
情報屋の経営する『
「チャオ。カフェじゃなくて
薄羽刑事は情報屋のことを
「少なくとも警察に頼るようなことじゃない」
警察に相談するようなことではあるが、それはこっちで犯人捕まえてからにしたい。探偵事務所が盗聴されるは外聞が悪過ぎるので。
「ハハハ!そうだな!だが草加班長の力を借りたいときはいつでも連絡しろよ。あの人は時間怪盗相手なら何処にでも直ぐ飛んでいく」
薄羽刑事が俺の発言に爆笑していたが、何処が面白かったのか分からん。
「そもそもその人の電話番号知らないですけど……」
とウイヒメ。
薄羽刑事からストリングスこと草加タクミの電話番号を教えてもらった。
カフェの店内に入ると異様な雰囲気があった。
情報屋が静止して、カウンター席には知らない女がいる。
女は黒髪を長く伸ばし、インナーカラーに紅色が入っている。その眼差しは何処かレイジを彷彿とさせ、銀縁の眼鏡が眼差しの鋭さを際立たせている。 服装は泥みたいな茶色の着物の上から黒い布エプロンをかけている。
女はスケッチブックに鉛筆を滑らせていた。
俺の心臓が早鐘を鳴らす。鼓動がうるさい。
「リコ姉さん?」
ウイヒメはどうやら知り合いのようだった。
「君は我が親戚のウイヒメではないか。久しいな」
女はスケッチブックから視線を上げる。
顔を真正面から見ると、眩しく感じる。顔つきの系統はウイヒメと同じようだが、ウイヒメよりも年上に見える。いやウイヒメが姉さん呼びしているんだから当然だろ。
「?」
女は顔を俺に近づける。視力が悪いのか。俺の顔の匂いを嗅ぐように鼻をひくつかせる。匂いを嗅いだのか?女は雨のような匂いがした。
「知り合いかと思ったがそうではなかったな。私は
日本人はあまり握手する文化はないが、リコは俺に手を突き出し握手を求める。
「乾マサト、しがない探偵助手だ。よろしく」
リコの柔らかい手を握った。
「早くしてくれない?」
情報屋が口元だけ動かし静止した姿勢で言った。
「そうだったな」
どうやらリコはブラックカードの磁気が悪くなり手持ちの現金がないので似顔絵で払うということをしていたらしい。情報屋もよくそれで通したな。
「私のメイン武器はこれだ。サブ武器は刀」
リコはこれと言ってスケッチブックを叩く。スケッチブックしかないってこと?いや普通に考えて絵か。
「破嵐本家のお嬢様がどうしてここに?」
ウイヒメは本家と言った。本家ということはレイイチの娘がコレか。
「借りていた部屋が全焼してな。父上からウイヒメの近くを勧められたのでこちらに引っ越した」
曰く、大学に出席していて帰ったら部屋が燃えたらしい。出火の原因はタコ足配線ではないかと言われたらしい。レイイチはリコのことを心配し、ウイヒメの近くに部屋を用意したらしい。
レイイチは俺のこと毛嫌いしていたと思うが、俺の近くに娘を置いていいのか?
「ウイヒメの方が私よりしっかり者だからな!」
そんなはっきりとした声で堂々と言うことじゃねえだろと俺は思う。
「大声で言うことじゃないだろ」
「相手に聞こえる声量で喋った方がいいだろう?」
何も恥ずかしいところが無いように堂々と言うリコ。ここまで真っ直ぐだと俺の方が間違っているように感じる。これはこれでいいんだろう。
「姉さんは明るくて楽しい人だろう?」
ウイヒメとしてはリコの挙動に不安がないらしい。俺はこれまでリコと会ったことがないので人柄について何も言えないが、鮮やかさを感じるし、惹かれるものがある。惹かれるというより放っておけないというか。
「綺麗だ」
「何がだ?」
「心が」
心の綺麗な人だ。周りの人間から慈しみを受けて育ってきたのだろう。
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