7話 お嬢様と企鵝 アバンタイトル


 関東近郊に幾つもあるワイルドハント社の研究施設。表向きは次世代電子機器の研究施設とされているが、地下の用途は違った。

 極彩色に光る原石からタイムレンズを製造する工房の一つである。

 無造作に原石の入ったコンテナの並ぶ倉庫を越えるとその奥にはマイスターの薫陶を受けた職人たちが原石を加工する加工室があった。

 その更に奥、事務作業用の机とPCが並んだ部屋にテンペストとヘイズが座っていた。


「チャオ。元気かい?元気じゃなさそうだな」

「ワタシは見ての通りだ。それで何の用だ。新規格レンズの最終調整で忙しい」


 テンペストは目元に濃い隈を貼り付けていた。乾マサトに撃退されて以降は負傷を癒す次いでに諸々の仕事を進めていた。休んでいる暇はない。


「《レッド》の件なんだが、出来ている新規格レンズとを借りれないか?」

「何故急ぐ?計画通りに生産できれば一月後には完成するのだが」


 ヘイズの催促に、テンペストは疑問を浮かべた。


「社長より託された『黙示録』の記述が変わり、我々に不利な未来が迫ってきている。流れが早くなってきているんだ。今を始末しなきゃ俺たちにはどうにもできなくなる」


 ヘイズは本を机に投げ出す。テンペストはそれをパラパラと捲った。

 そこに書かれた記述は曖昧で抽象的だった。


『嵐の道を辿る旅人、硝子の円蓋ドームにて、吹雪の力を得る』


 だがその記述が本当に未来を示していることは疑う余地がない。行方不明の社長がヘイズに与えた道具だからだ。


「……新規格のレンズとエージェントを一人貸す。ワタシが出るよりもその方が良いだろう」


 乾マサトことエージェント・レッドが裏切る前までテンペストは研究部門のチーフであり、その頃の人脈が今もまだある。今では他のエージェントと同じ立場に降格しているがWワイルドハント社マイスター派でヒュドラに次ぐ影響力を持つ。


は?」

「まだ中身が完成していない」


 テンペストは研究職でもあり、マイスターの関心が薄いを任されていた。は些事の一つであった。


「エージェント二人じゃあ足りんな。アイツにも動いてもらうしかないか」


 ヘイズはできれば頼りたくない相手に頼ることに決めた。頼る相手はエージェントチーフ・ミラージュ。

 ヘイズとミラージュは分かち難い比翼である。組織上はミラージュがヘイズの上司であるが、二人は長い付き合いであり、お互いを対等タメと考えていた。

 しかしヘイズはミラージュを自らが守護する対象と考えていた。ヘイズの考える仮面バトラーの誇りは守護おまもりすることである。





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