5話 狼と犬 1/2
ヘイズの持つ
「……本当ならここでトドメを刺さないといけないが」
ヘイズは脅威の接近を感知していた。仮面バトラーレンズを始末していてはテンペストを連れて逃げる時間が無い。
ヘイズは何処からかメモ書きの束を取り出し、中に目を通す。そして直ぐに閉じる。
「いーいもの見せてくれた礼だ。今日はここで引いてやる」
ヘイズは仮面バトラーレンズに背を向け、壊れた窓から外に飛び降りた。
いいもの。ヘイズは二ついいものを見た。一つは『お嬢様』の命を迷わず優先した気高さ。もう一つは繰り出された槍の上に飛び乗り、一撃でテンペストを吹き飛ばした曲芸。
仮面バトラーには意志と力が必要だとヘイズは考えていた。仮面バトラーレンズはヘイズの考えではそれを満たしていた。劣勢の中、ヘイズの気まぐれとはいえウイヒメを逃がせたのは『仮面バトラー』として十分な成果だろう。
まだ時間はある。今はまだ乾マサトを始末できなくても構わないとヘイズは判断していた。
駐車場ではテンペストが呻いていた。
『タイムレンズに深刻な損傷があります。直ちに装着を解除し検査を受けてください』
テンペストの仮面からはシステム音声が聞こえた。回し蹴りがレンズを破損させ、吹き飛ばされた衝撃がテンペストの全身を傷つけていた。
「そのレンズの損傷じゃあ逃亡用の高速機動は無理そうだな」
ヘイズがテンペストを見下ろし、言った。
逃亡という言葉に反応し、テンペストは身を起こした。最低でも全身の打撲、骨折や臓器の損傷が考えられるがそれでも身を起こした。戦意を取り戻したのだ。
「逃げる?レッドは始末したのか?」
「いや。こうして話込んでいる時間もない。面倒な奴が来た」
ふらつくテンペストに、ヘイズは肩を貸そうとするが拒否される。
テンペストたちの正面に人影があった。
「時間怪盗、抵抗は無駄だ。私には抵抗を打ち破る備えがある」
黒い半透明の装甲を纏った戦士ストリングスだ。
ストリングスの周囲にはアサルトライフルやサブマシンガンで武装した重武装の警官隊も居る。
大勢の警官隊は仮面バトラーの脅威ではない。脅威とはストリングスの存在だ。
「時間怪盗か。俺は自分のことを騎士だと思っているんだが……まあいい」
ヘイズは自身のレンズの能力を使った。レンズの姿が何体にも増える。
本物は一人。あとは実体のある幻影である。
幻影は警官隊から銃を奪いあしらっていく。
「じゃあな」
本物のヘイズはテンペストを担ぎ、逃亡した。
ストリングスは警官隊のフォローのために追う余裕が無い。
目を開けると知らない天井があった。
上半身を起こす。身体は節々が痛む。動きに支障はない。掛けられている布団の上に誰かがうつ伏せに眠っていた。この赤いカチューシャはウイヒメだ。
「眠るなら横になれ」
指先で赤いカチューシャを押して、ウイヒメを起こそうとする。
「マサトくん、起きたんだね。大丈夫かい?」
目元が赤い。ウイヒメを泣かすとはレイジに合わせる顔がない。
「おうよ」
ウイヒメに掛け布団から退けてもらって、ベッドから降りる。
足が床に着き、激痛がつま先から頭上まで走る。
「
元気さをアピールするつもりだが、動かすと痛みが走り挙動に現れてしまった。声も出た。
「いやいや、勝手に降りちゃダメだよ」
それから医者がやってきて全身に打撲や内出血があり、大事を取って一晩入院しろ言われた。
運び込まれた段階では骨にヒビが入っていたらしいが寝ているうちに治った。俺が気を失っていた時間はたった一日。一日で骨のヒビが治るとは脅威的生命力だな、我ながら。
入院する必要がない程度ならさっさと帰りたいんだが。
一晩ってすぐらしいな。一晩が経った。けっこう槍や剣でどつかれた気がするが内出血で青痣できているくらいで済んでいる。
退院し、事務所に戻った。
今日は天気が良いし早めに閉店するかと思っていると、昼過ぎにカタギに見えない人が来られた。
髪型がカチッとオールバックになっているし、目に縦の切傷が走っていてサングラスかけているし。
スーツやシャツは地味なのが逆に只者ではなさを
「警視庁時間犯罪対策班班長、草加タクミだ。先日の時間怪盗による襲撃事件について話を伺いたい」
そう言って警察手帳を懐から取り出した。
「突然襲われてそれに応戦しただけだが」
突然襲われて、それに応戦し負けた。それだけだ。俺が仮面バトラーであることは警察も知っていると思うが、そこでごちゃごちゃ言ってくるのか?
「国家権力や組織と関わらずタイムレンズを使い、時間怪盗と戦う者。私がその力に相応しいか評価を下そう」
『適合値:87。結晶装甲、強化スーツ、装着のリクエストを実行します』
草加タクミのサングラスが発光し、草加タクミが変身した。
レンズ二枚、いや一枚分か?時間怪盗と同じようなものに変身している。
胸には穴が開き、胸部装甲の上を弦が走っている。頭の側頭部には
「表に出ろってことか?話はどうした?」
「お前の身体に聞くということだ」
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