4話 蟹と時間怪盗 1/2
時間怪盗を打ち倒すことができる者は『仮面バトラーレンズ』以外にも存在する。
曇天の空の下、某県の海岸沿いの道路を車が走っている。車はそのうちに渋滞の列と遭遇した。尋常ではない。
渋滞を起こしている車の車内を見てみれば運転手は身動ぎしていない。彫刻のように固まっている。
車から男が降りた。
黒髪をオールバックにし、黒いサングラスを掛けている。何より目を引くのは閉じた片目。片目の上には傷が走っている。どうやら片目の視力を失っているようだった。
「時間怪盗、抵抗は無駄だ。私には抵抗を打ち破る備えがある」
男は警察手帳を渋滞の列の先に向ける。時間怪盗がこの先にいると分かっているようだった。
渋滞の列を走り、何者かが男の前に迫る。
「刑事さーん、アンタに俺が止められるか?」
時間怪盗は『歩行者専用道路』の看板が顔に付いた黒いスーツに身を包んでいた。『歩行者専用道路』の概念を取り込んだ時間怪盗なのだろう。
「無論」
『適合値:87。結晶装甲、強化スーツ、装着のリクエストを実行します』
男の掛ける黒いサングラスが発光し、光が収まると黒い半透明の装甲を纏った戦士が現れた。
胸には穴が開き、胸部装甲の上を弦が走っている。頭の側頭部には
まさに人間の形をした弦楽器というべき姿である。
「アンタ、何者だ!?時間怪盗か!?組織のエージェントか!?」
『歩行者専用道路』の時間怪盗はたじろぐ。タイムレンズを持つ者は組織の関係者と時間怪盗は思っていた。
「さっき見せた通りだ。刑事、草加タクミ。あるいは『ストリングス』とでも呼ぶがいい」
草加は指を時間怪盗に向けた。時間怪盗は咄嗟に身の危険を感じ、飛び退く。
草加の指先から伸びた弦が時間怪盗を拘束した。拘束された時間怪盗が宙に投げられる。
自然落下で落ちてくる時間怪盗を蹴り、吹き飛ばす。時間怪盗は道路をバウンドし、ガードレールにぶつかり爆発した。時間怪盗の変身が解ける。
「これでフィナーレだ」
草加は変身を解除し、車に乗り込む。
時間怪盗の被害者たちも時期に時間が戻り動きだす。草加は事後処理を所轄の警官たちに任せた。
我ら破嵐探偵事務所にも休みがある。不定休だが。空が青かったから、何処か行こうかという話になった。
「蟹が食べたいな、お店で」
ウイヒメが蟹食べたいらしいので昼は蟹を食べに行く。
「蟹の美味しい店知らんな……情報屋に聞こう」
こんなくだらないことに情報屋を頼るのかと俺も思う。
千円のコーヒーを飲むとこういうちょっとしたことを教えてくれる。
ということで『
店の中では店内の隅に置かれていたピアノで、薄羽刑事と情報屋が連弾していた。
音と旋律が調和を創造している。昨日今日でこれだけ息の合った演奏はできないように思える。
「おっと、恥ずかしいところを見られたね」
情報屋がピアノの前から立ち、俺とウイヒメをカウンター席に座らせる。
薄羽刑事は俺たちの背中を通って店を出ていこうとする。情報屋は薄羽刑事の服の袖を掴んで留める。
「カゲロウくん、お弁当持っていかない?と言ってもカレールーをスープジャーに入れるだけなんだけどさ」
情報屋が薄羽刑事をくん付けで呼んでいる。見た目だと薄羽刑事の方が明らかに年上だと思うがくん付けで呼ぶんだな。それよりも情報屋がカレーを持ち帰らせようとするのは初めて見た。いや普通カフェに持ち帰り容器なんてないんだけど。
「今日は外で食べるからいいよ」
「じゃあ、いってらっしゃい」
「ああ。行ってくる」
薄羽刑事と情報屋のやり取りは
「
「邪魔じゃないよ。気を抜いていた私が悪い」
甘いコーヒーをウイヒメの前に、ブラックを俺の前に置く。動揺しているな。
「
ウイヒメは色恋が嫌いなわけじゃないので踏み込む。俺は踏み込まない。人には人の事情があるし容易に踏み込むべきではない。
「別に仕事だけの付き合いだよ。お客さんの一人だよカゲロウくんも」
情報屋は早口で言った。いやいやただのお客さんと連弾しないだろうし、カレーの持ち帰りを勧めたりしないだろ。
ウイヒメと顔を合わせる。ウイヒメも釈然としなさそうな顔をしていた。
「ふーんそうなんだ。ところで蟹の美味しい店って知っているかな?」
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