3話 都市伝説と時間怪盗 2/2

 事務所から一時間くらいバイクを走らせた。都内と隣県の境みたいな場所、マンションや家や駐車場の建ち並ぶ街に着く。

 道行く人々はくねくねしたポーズで時間を盗まれ停止していた。

 最悪の想定をすると『くねくね』と時間怪盗が両方いる。そうじゃないなら『くねくね』の時間怪盗がいる。物体ではなく概念系を取り込んだレンズを使った時間怪盗はなかなかレアだ。がレンズの段階で手を加えないとそんなもの作れない。

 そろそろ仮面バトラーレンズになっておく。


『適合値:100。結晶装甲、強化スーツ、装着のリクエストを実行します』

 

 レンズ越しなら少しは精神汚染に耐えられるかもしれない。


「くねくね」


 何か人型で、白い全身スーツに身を包んだ奴がくねくねしながら、くねくねと言っていた。たぶんこれが『くねくね』だろう。


「『くねくね』の時間怪盗だな」


 『くねくね』を直視しているが、精神汚染はあまり感じない。全身を振り回し、『くねくね』と同じ動きをしたいという欲求を感じるが、徹夜して眠いときの眠気よりマシくらいだ。

 恐らくレンズ越しなのでこの程度の精神汚染で済んでいるのだろう。

 時間切断器タイムスラッシャーを構える。


「やらせはせんぞ!!」


 白いスーツの上に半透明の青い装甲のが、槍で俺に襲い掛かる。レンズで相手を見る。常時十倍速か。相手にするのが面倒だな。時間を合わせる。これは戦闘後しばらく停止しなきゃならん。

 相手は『くねくね』の時間怪盗の近くで監視していたな。

 そして奴は俺をと読んだ。相手はおそらくのエージェントだ。俺について何か知っているかもしれない。


「時間怪盗の元締めか。俺を知っているのか?」

 

 くねくねしたい欲求、くねくね欲求を抑えながらタイムスラッシャーを振って、相手の槍を弾く。この槍も極彩色に輝いていることから時間硝子で作られた道具ということが推測できる。


「キミのことは忘れられぬよ……」


 『くねくね』を庇うように俺の前に立つ青いの。どうやら『くねくね』はくねくねしている場所から動けないらしい。くねくねレンズ、欠陥品だろ。


「お前は誰だ」


 タイムスラッシャーを振るう。相手はくねくねを庇っているので、俺の攻撃を避けられず防戦一方。だが、巧みな槍さばきで俺の剣をいなしていく。くねくね欲求で俺も集中力が削られていることも関係しているかもしれない。


「エージェント・テンペストだ。ふむ……どうやら記憶喪失のようだな」


 テンペストは俺が記憶喪失と知り、動きが鈍くなる。何を言うと不味いか俺の攻撃を捌きながら考えているな。既に名乗り、俺をレッドと呼んだことがどれほどの利益を傷つけるか考えている。と思う。

 ここは一つ、タイムスラッシャーの機能を使う。


「燕返し!」

 

 テンペストと『くねくね』を別方向から同時に切った。

 一度に別方向から攻撃できるタイムスラッシャーの機能だ。多発すると俺の時間を削っているので硬直することになる。時間がすっからかんになると生きても死んでもいない状態になる。

 テンペストには防がれたが、『くねくね』のレンズは砕けた。これでくねくね欲求は解消され、被害者の時間も戻る。


「次はお前だ」


 切っ先をテンペストに向ける。相手は庇うべき『くねくね』が倒され、自由になった。それでも状況は少しマシになったくらいか?


「呆けたワタシのミスだな。ここは引く。覚えていろ。キミはワタシが倒す」


 テンペストは超高速移動で撤退した。通常の百倍で逃げられては追いかけようもない。俺の時間をどれだけ消費しても追いつけないのは分かりきっている。もどかしい。

 俺の記憶やレイジの仇の手がかりなのにな。




 『くねくね』の時間怪盗を撃破し、被害者のほとんどに時間が戻った。時間の戻らない被害者もいる。おそらくあのテンペストとかいう奴が時間怪盗から時間を回収していたのだろう。時間怪盗被害は全てのレンズを砕くまで残り続ける。

 事件の後始末に警察がやってくる。その中には当然薄羽刑事もいる。

 完全な解決ではなく、しこりが残る結果になった。

『くねくね』のレンズを砕かれた時間怪盗は、担架で救急車に積まれている。素人目にもしばらく病院から出られなさそうだった。

 薄羽のおっさんが自販機で飲み物を買い、俺に投げる。


「乾、濡れた犬みたいな顔しているぞ」


 濡れた犬みたいな顔、想像がつかない。何を表現しようとしているか分からん。


の人間を俺が取り逃がしたせいで時間が戻らなかった奴らもいる」


 俺がテンペストを逃さなきゃ、みんな助かっていた。


「違うぞ。お前がみんなを助けたんだ。時間怪盗をお前が倒さなきゃみんな止まったままだった」


 薄羽刑事は俺をどうやら励まそうとしているようだった。


「お前は為すべきことをした」


 薄羽刑事の言葉を聞き、思い出した。

 情報屋から報酬を受け取らないといけない。そもそも『くねくね』の始末は情報屋の依頼だ。




 情報屋の経営している『XXダブルクロスカフェ』に『くねくね』の件について報告しに行く。

 ウイヒメは関係無いんだが、ウイヒメの顔を見ると情報屋が見栄を張ろうとしてくれるので、来てもらった。


「『くねくね』撃破、助かるよ。これは私の奢り」


 頼んでもいないのにコーヒーが置かれる。

 俺には砂糖とミルクがたっぷり入ったコーヒー。ウイヒメはブラック。情報屋は誰が何を頼むのか知っている。


「これが報酬じゃないっすよね?」

店長マスターはそんなにケチじゃないよ」


 ウイヒメが俺の冗談に乗っかる。ウイヒメは情報屋をかなりリスペクトしている雰囲気をこれまで出してきている。なので情報屋はケチなことは言えない。金が出ないことは疑ってないが。


「カレーも食べたいだろう君たち?」


 情報屋がカレーを振る舞ってくれたが、適当にあしらわれたされた気がする。

 そもそもどうしてと思ったのか、それが少し気になったが、カレーを食べていくうちにどうでも良くなった。

 たまたま見ていた場所に『くねくね』が出てきただけかもしれんし。

 

 


 

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