第18話 昔のことと彼は言った3.5
「こほん。一番好きなパンタレイは、どの作品?」
「それはやっぱサイン、『パンタレイ:サイン』だ。貫崎原さんもだよな? 『フランタ』倒したいって話だし、待ち受けも『サイン』だし」
「うん。そう言う向井君は鞄に『サリバース』の缶バッジ付けてるよね。それも『レスター島』の時の」
「わかるか!? カッ……コイイよなぁ、半壊状態で頭部も右半分は表面削られてさ、こう右眼がスパークしてるの。あれさ、シークレットのやつでさ、カプセルトイの。あ、貫崎原さんはどの機体が好き?」
「カプセルトイかぁ。私、運がないみたいで、欲しいやつに限っていっつも全然当たらないんだよね。機体なら『リッズ』が好き。一番きれいだったから」
「じゃあ『
「だめだめ! 『リッズ』は『リッズ』じゃなきゃだめ。ネイラーはリッズとは認めない」
「過激派キタ」
「だいたい……『リッズ』は壊されちゃ駄目だったんだから。ほんとに、駄目だったのに!」
「貫崎原さん『オブリエル隊』が好きな感じ?」
「ちょー好き! 大好き! 特にやっぱり『サイラ・ジリトン』が一番好き」
「え、そっち。俺はてっきり『オブリエル』か『ハンス』かと思った」
「もちろんその二人も好きだけど、だって……『サイラ』だよ? 好きになるに決まってる、あんなの」
「『ラグサイ』?」
「『ラグサイ』。誰がなんと言おうと『ラグサイ』。『ラグアレ』も嫌いじゃないし『アレシア』もすごくいい子だと思うけど、私は断然、『ラグサイ』派。『サイラ』は『ラグリオ』と、幸せにならなきゃいけなかった……いけなかったんだよ……」
「ああ……なら『ネイラー』は認めらんないわなぁ。アニメじゃ出てない設定、知ってるんだよね?」
「ぶっちゃけあれ、悪趣味じゃない? あんな設定にして、しかも本編じゃ誰も知らないっていうか視聴者だってわからないとか……ひどいよ、あんなの」
「『サイン』はそういうとこあるよなぁ。賛否両論も仕方ないわ」
「それはほんとにそう。まぁ、だから深みに嵌ると大変なんだけど」
「ほんとにね」
「向井君は、リアタイ勢なんだよね?」
「なんで知って、るのはあれか、浩史と話してるの聞いたのか」
「うん。別に盗み聞きしようとしたわけじゃないよ? たまたま聞こえただけなんだから……ちょっと耳澄ましてたけど」
「貫崎原さんはリアタイはしてなかったってことか? 再放送で見たの?」
「ううん。おにいちゃんが持ってたのを見せてもらったの」
「お兄さんいたんだ」
「あ……んぅ……し、親戚の人、だけど、別に! そういう親戚付き合いってだけで今はっ……いま、は……だからその、昔から知ってるってだけで別に……おにいちゃんってわけじゃ、なくて……じゃなくて、おにいちゃんみたいなもので……」
「なんでもいいけど、仲良いならいいことだよ。そういう関係っていいよね。じゃあその親戚のおにいさんの影響なんだな。その人も『サイン』好きなのか?」
「おに……ゆ……別に特別『サイン』がってことはないと思うけど」
「ふーむ、そうか。……一旦その人のことは置いておくとして、貫崎原さんは『サイン』以外はどんな感じ? 一通り見てたり?」
「う、私は基本『サイン』で……他の作品はこれから知っていければなぁ、と、思ってます」
「ああいや、わるい、いいと思うよそれで。てか好きなやつだけ見ればいいと思うし。俺、厄介ファンにはならないようにって心掛けてるから。心だけは掛けてるから!」
「そうかなぁ。心掛けてる割に、最初に私が『パンスタ』教えて欲しいってお願いした時グイグイ来たよね、すっごく」
「そ、そんなこともー、あったかもしれない、はは。か、貫崎原さんは、聞いてた感じキャラファンだよね、どっちかというと、たぶん」
「キャラかロボ、戦闘シーンかっていうあれ?」
「そうそれ。よく『パンスタ』やろうと思ったよね。調べたりはしたでしょ? ありえん難しいって記事とか攻略サイトとか出て来たでしょきっと」
「それはぁ……いいじゃん、やったって」
「……ふぅ。ちょっと真面目に話すんだけど……貫崎原さん、そこまで『パンスタ』愛、というか熱というか、そこまで『パンスタ』がやりたい上手くなりたいってわけじゃ……ないよな?」
「わかっちゃうんだ、そういうの、やっぱり。……わかりやすいのかなぁ、私」
ここだ。とあたしの直感が告げた。
「ごちそうさまでした」
「「あ」」
「はいはい。そういえば居たんだっけ、ってね? 二人してなぁ」
「ごめぇんさっつん! でもだってさっつんが「あたしのことは気にしないでいいから」って言ってくれたから!」
「まぁねぇ。もともと強引に割り込んできたわけだし、ほんとに気にしてないから大丈夫。……向井は別な。なに安堵した顔してんの? ざきばらは許すけど向井は許さないから」
「え、あ、いや、お、ちょ……っとそれはおかしくない、ですかね? ほら片桐さんも自分で言ってたじゃん「強引に割り込んだのは自分だ」って。ちょっと片桐さんのこと忘れて盛り上がっちゃったけど、お、俺はわるくねぇ、ような、気もします、よ?」
「ま、今回はざきばらの面白いとこ見られたし、いいか、許す。てかまぁ、許す許さないとか言えた義理じゃないけどね。あたしの方こそほんとにただ邪魔になっちゃったみたいでごめん。あんなにざきばらが楽しそうなの、ちょっと中々見ないくらいだったよ」
「さっつぅん、そういうことは言わなくてもよくない?」
「あっは、いいじゃん、ほんとのことだしぃ。あーでも、ほんと、ごめんだけど二人がなに話してるのかちっともわかんなかった。サイン? っていうのが? タイトルってこと?」
「片桐さん! ……興味あるのか!?」
「……向井はいい。ざきばら、今度教えてね」
がくりと肩を落とした向かいには聞こえないようにざきばらの耳元に口を寄せる。
「それと、さっきの、向井が真面目な話って言ったやつ……ちゃんと話しなね? 横槍入れといてわるいけど。たぶん、ほんとに……大事なことな気がするから」
「うん、わかってる。わからされたから」
それならいい。とはいえ今日は時間も時間だから、二人きりにしてやるつもりは毛頭ない。
高校三年生の男女の夜なんて、なにがあるかわかったものではないのだから。
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