幽霊実体験簿

イタチ

しねしねしねしね

うちの叔父はそんな事を言いながら電信柱の陰に立っていた





布団の中で、聞かされる怪談話は、私の心情を冷たく、暗い中に、引き込んでいく

羽毛毛布の中にいるはずなのに、体がひどく冷えている気がする

話がおえて、扉が閉まった後だったとしても、その恐怖の中に、感情は、続いていた

気絶するようなねむり方をしたのちに、朝は来る

そう、朝は、必ず来るから、私は眠っていた

その日を、境に

目を覚ました私は、騒がしい声に、何事であろうと、階段を駆け下りて、リビングにいた

「三十歳か」

その言葉に、叔父の年齢と、それよりも、そのソファーに、寝ている男に、どうしてそこまで、真剣に話し合っているのか

私は、その雰囲気に、違和感を、覚えていた

何が、起こっているんだろうかわからない

「叔父ちゃん、死んじゃったの」

そんな事を言われて、涙が流れる

それは単純な、別れに対する耐性のなさであり

数年後、そんな事が、無意味に感じる日も近い

「お葬式の準備が、忙しくなるわね」

おばあちゃんが、そんな事を言っているが

この人は、どうして、息を止めているのだろう

死んじゃったのだろうか

死を前に、私は、物珍しさよりも、そのはじめてに対する感情を、優先していた

今思えば、勿体ない事を、したものである




幽霊

そんなものは、幾ら世間的認識はあっても、それを、認めるには現実的、実体的、法則

つまりは、本物ではない、という認識が強い事であろう、

もしも、そんなものを、本当の意味で信じて居れば、キチ外じみているか、陰謀論者の烙印を、押され、カードも持つことは許されないだろう

それは、さて置くとしても

私は、病気なのかもしれないが、なぜか、死んだ叔父の幽霊を、見ることが良くあった

いや、実際にはしょっちゅう見ている

朝学校に行くために、家の扉を開けると

そこには、叔父が、こちらの方を向いて、呪詛を、呟き続けているのだ

実に、気味の悪い話である、しかし、それは、包丁をもって、私を殺しに来たことも、話しかけても、会話をしたことも

実体もなければ、なにかをすることも無い

ただ、私の目の前に、それは、存在した

他に、幽霊を、見たことも、何か、幻覚を見たこともない

あれは、一体何なのだろうか、私に何か、恨みであもあると言うのだろうか

「おい、邪魔だ」

そう言っても、それは、電柱のように、何かを、語ることはない

もしかして、誰かが、映している映像の類かと思った気もしたが

何処からか、光を、出して映しているのだとしたら、何処を遮っても、映像が、流れているのは、おかしい

全く別の行動をしているのだろうか

「あんた何しているの」

母親は、最初は、虫かと思ったのだろうが

そのうち怪しみ始めたので、出来るだけ、それを調査することはなくなった

しかし、それはいつも同じ服、滅多に見ない写真の通りに、そこに存在していた

近くで見ると、確かに実態がある様な、画像である

しかも立体

色付きであるが、それが何なのかは、全く分かりかねた

夏休みの宿題にでも、自由研究で、それを、解明、もしくは、発表するれば、それは、ある意味、有名となるだろうが、しかし、それは、上に有名か下に有名かは、想像にやさしい

だからこそ、雨の日も、滅多に雪が降らない冬だろうと、三百六十五日

そこに立っている呪物を前に、私は、無視することにした

別に何もしないし、何かしてくれるわけでも、何もしないわけでもない

ただ、そこで呟いている

私が、その存在に、気が付き始めて、十年の歳月が立とうとしていた

一家は、引っ越すことになり、ああ、そう言えば、あれは、しばらく見ないことになるのだろう

そんな事を思いながら

別の家に、言った当日

良く見知った恰好の奴がそこにいた

「っあ、おじさん」

だれも居ないはずのそこに、私は声をかけていたが

相変わらず、呟いている

その呪いの言葉は、一体何の意味があるのだろうか

誰かが、不審死したわけではない

叔父さんの死後

ひいおばあちゃんは死に

二人のおじいちゃんとおばあちゃんもしんだ

しかし、全てが、自然死であった

でも、目の前にいるそれは、何かを言っている

何の理由があるというのか、私にはわからない

高校に、入ろうとするのに、その日現実的な

存在は、被膜に映る微生物のように

果たして、一体何なのだろうか


部活帰り、私は、夜の電柱の下

声をかけた

それは、不審者以外の何物でもない

もちろん辺りを見渡して、一応携帯を、前に持って、不審者扱いされないように

私は、相手へと声をかける

「ねえ、何を、恨んでいるの」

相手は、私に向かって声をかける

実際には、視線が、同じだけである

私は、まねるように、同じことを、繰り返した

「しね」と

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幽霊実体験簿 イタチ @zzed9

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