第10話 盾使いと上級灰魔と過ぎたる自信

 シュンは自身の目の前にいるガーゴイル型の上級灰魔を見上げる形で睨み、口の端を釣り上げる。


「よお、灰魔。決着つけに来たぜ」


 言ってシュンはペネトスの穂先を上級灰魔に向ける。今の自身の力ならば確実にこいつに勝てる。シュンの様子にはそんな思いがありありと見て取れた。


 しかしながら、上級灰魔の反応は薄い、シュンを見ても大した反応を見せず小首を傾げているくらいだ。そんな灰魔にシュンは


「おい、もう少しなんか反応してくれよ」


と文句を言う。しかしながら相手は灰魔、異形の中の異形だ。そんな相手にシュンの言葉が通じるはずもない。


「まあいいや、それじゃあ勝負を始めようか」


 そう言ってシュンがペネトスを構えると、流石の上級灰魔もシュンの意図がわかったのかその口の端を歪めて嗤う。


「いいね、ようやく俺の意図が伝わったか」


 シュンはそう言うと同時、鋭い一撃を上級灰魔めがけて放つ。が、上級灰魔はその突きをバックステップで華麗に回避、そしてシュンめがけて間合いを詰めてその丸太の様に太い剛腕による大振りの一撃を放った。


「そんなとろい攻撃に当たるかよ!!」


 そんな余裕を見せて灰魔の攻撃を回避してみせるシュン。しかし、内心では肝を冷やしていた。

 

 灰魔の攻撃は大振りではあったもののその威力は本物で、一撃でシュンに死をもたらす程の威力を持っていた。


 しかし、当たらなければどうと言うことはない。ここは回避に徹して隙を見つけ渾身の突きを喰らわせる。シュンはそう心に決めて上級灰魔の動きを注視する。すると上級灰魔の方もシュンの狙いが読めたのか攻撃を繰り出さない。両者睨み合いの状況が続く。


――先に動いた方がやられる


 シュンはそう思いつつ、上級灰魔の一挙手一投足を見逃すまいとその目を大きく見開いた。

 そんな状況がを先に破ったのは上級灰魔の方であった。


「グギャア!!」


 ここに来て初めての発声。それと同時に再び大振りの一撃、当たればまず間違いなくシュンの命を刈り取るだろう危険な攻撃。しかし、シュンにとっては待ちわびた待望の一撃だ。シュンはその大振りの一撃をすんでのところで回避すると上級灰魔の脇腹めがけてサイドステップし、がら空きになった脇腹めがけて渾身の突きを繰り出した。


――とった


 シュンがそう確信した攻撃は脇腹を貫通するどころか上級灰魔の外皮に阻まれる。


「な!?」


 間違いなく渾身の一撃であった。先程まで戦っていた下級灰魔相手ならば確実に貫いていた一撃だ。しかし、目の前の上級灰魔にはそれすら通用しない。シュンは予想外の結果に動揺が隠せない。


――どうすればいいんだ


 シュンは内心焦りでいっぱいいっぱい隙だらけ。当然その隙を上級灰魔は見逃さない。上級灰魔はそんなシュンめがけて再び大振りの一撃を繰り出す。


「危!?」


 シュンは咄嗟に盾のギフトを展開させ、灰魔の攻撃を防御する。


「グギャ!?」


 盾のギフトの能力、加えられた攻撃の威力を吸収し、その力を衝撃として相手に返す。その能力により自身の攻撃を返された上級灰魔は短い悲鳴を上げ、頭を振ってシュンを睨みつける。


 ダメージは通った。しかしながらシュンの盾の能力は回数制限があり、残り一回しか使えない。


 シュンは五体満足で上級灰魔はダメージを負っている。見た目の優勢はシュンに在るが、その実シュンが劣勢なのは火を見るより明らかだ。


 それは当然シュンもわかっており、シュンは先程までの自身の行動を激しく後悔した。何故下級灰魔を斃した後に他の騎士たちと合流しなかったのか。何故下級灰魔を斃せる程度の実力で上級灰魔に勝てると思ったのか。何故モリアの鼻を明かしてやろうなんて子供じみた考えを持ってしまったのか。

 

 しかし、失った時はもう二度と戻ってはこない。盾のギフトも残り一回しか使えない。追い詰められたシュンの顔には恐怖の色がありありと浮かんでおり、そんなシュンの顔を見た上級灰魔はシュンとは真反対の嬉々とした表情をしていた。


――とにかくこの場を離れないと


 そう思ったシュンはペネトスを構えながらじりじりと後退する。


 が、しかし、


「あぶっ!?」


上級灰魔の容赦ない攻撃がシュンを襲う。


「グギャギャギャギャ」


 上級灰魔は心から楽しそうにシュンを攻撃し、追い詰める。シュンは命からがら上級灰魔から繰り出される攻撃を避け続けるが、徐々に徐々に追い詰められ、後退するが突然その歩みを何かに遮られる。


「なっ!?」


 シュンは咄嗟に後方に目をやる。そこには森の木があった。


――木?――しまっ!?


 一瞬、ほんの一瞬だが森の木に完全に気を取られてしまうシュン。その一瞬は大きな隙となりその隙を突いた上級灰魔はその腕を大きく振り上げていた。


 この攻撃は避けられない。そう瞬時に判断したシュンは残り一回しか使えない盾のギフトを使うことを決意し、盾のギフトを眼前に展開させ、上級灰魔の攻撃に備える。が、上級灰魔がその腕を振り下ろすことはなかった。


――まさか。使わされたのか!?


 上級灰魔はシュンの思考を肯定するようにその口の端を大きく釣り上げる。そして、シュンの展開した盾が消失すると同時、上級灰魔はその腕を振り下ろした。

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