第9話 盾使いと灰魔と訓練の成果

 灰魔狩りと聞いてシュンの頭に異世界初日に出遭った上級灰魔の姿がよぎる。あれを狩るのか?確かに人数はそれなりにいるし皆自分よりは強い。しかしながらあの化け物も中々の強さだった。そんな存在を狩ることが本当に出来るのか?


「隊長、本当に俺らであの灰魔に勝てるんですか?」


「貴様の言う灰魔がどの灰魔を指しているのか大体検討はつくが、今日狩るのは街道沿いの森に出没する下級灰魔だ。上級灰魔は数に入ってはいない」


 モリアの言葉にシュンは安堵の吐息をこぼす。あれを相手にするのは骨が折れるどころの騒ぎではないそれが目標でないのならばどうにかなるだろう。


 あらかさまに安堵するシュンを見て、モリアはシュンのことを嘲笑するような笑みを浮かべて「が」と前置いて言う。


「上級灰魔が現われた場合も当然そいつは狩りの対象だ。どうした見習い、怖くなったか?」


 モリアの挑発にシュンは当然むきになる。


「だ、誰が怖いなんて言ったよ」


「さて、どうだかな」


 余裕のあるモリアの表情に、先程まで完全にビビッていた自身を恥じるシュン。


「ぐぎぎぎぎ」


 反論らしい反論も出来ないほどに図星を突かれていた。そんなシュンを見てモリアは満足したのか


「さあ、無駄話はここまでだ。灰魔狩りにでるぞ!!」


号令をかけて騎士たちの先頭を歩き出す。他の騎士たちもモリアに追従し始める。


「おいシュン置いてくぞ」


 騎士の誰かがそう言うと、シュンも慌ててモリアの後を追うのであった。



 街道沿いの森に着くとモリアの号令の下、騎士たちは散開して森の中に入って行き、シュンはごくりと生唾を飲み込んで森の中に入る。これから初めての戦闘が始まる。その緊張がシュンの足取りを硬くしていた。


「あまり散開しすぎるなよ、灰魔と接触しても必ず複数名で討伐するんだ」


 そうモリアが騎士たちに命令するが、緊張のあまりシュンの耳には入ってこない。気付けばシュンは他の騎士たちから完全にはぐれてしまっていた。


「あれ?他の皆は?」


 そう疑問を口に出すがそれに応える者などいない。そこでシュンは腕を組んでしばらく黙考。


「やべえ、完全にはぐれた」


 その時であった。シュンの正面の茂みがガサガサと葉を揺らす。


「お!なんだ近くにいるんじゃん。俺ってばはぐれたモンだと思って少し焦っちまった」


 少しどころではなく完全に焦っていたのだが、その姿は誰も見てはいない。見られてないのならばそれはもうなかったものだとシュンは思い、今も葉を揺らす茂みに近づいてゆく。すると茂みの中から狼のような形をした白い獣が鋭い牙をむいてシュンめがけて飛びついて来た。


「!!」


 シュンは反射的に左手で盾のギフトを展開、飛び出してきた獣は展開された盾に衝突し「ギャン」と短い悲鳴を上げて地面に倒れる。


「何だこいつ!?」


 咄嗟に反応だけはしたものの、白い獣に突然襲われたことに動揺が隠せないシュン。白い獣はヨロヨロと立ち上がりながらも戦意はまでは挫かれていない。変わらずシュンに牙を剥き、低く唸る。


「こいつが灰魔…なのか?」


 シュンは腰に装備していた槍――ペネトスを抜いて構える。すると再び白い獣がシュンめがけて走り出した。ここは下手に攻撃に出るよりも相手の攻撃に合わせて突きを放つ方が得策か。シュンはそう結論付けて相手の攻撃を待つ。


 そして、白い獣が自身の攻撃の間合いに入ったその時、再び白い獣はシュンめがけて飛びついて来る。


「それは一度見てるんだよ!!」


 言ってシュンはペネトスによる突きを白い獣めがけて放つと、その突きは白い獣の口内を穿つことに成功する。口内を穿たれた白い獣は悲鳴を上げることも出来ずにそのままこと切れ白い灰と化し、ボロボロとその体を朽ち果てさせてゆく。


「なるほど、これだから魔って呼ばれてるのか」


 シュンがそう納得したのもつかの間、茂みの奥から続々と狼型の灰魔が現われ、灰魔はどれも明らかな敵意をシュンに向けている


「げ、まだ出て来るのかよ」


 シュンは辟易といった様子だが、構を解くことはない、むしろ内心では先程の戦いで自身の実力が灰魔に通じたことに歓喜し、ヤル気に全開だ。


「よっしゃあ!かかってこいや!!」


 シュンの声に呼応するように灰魔たちはシュンめがけて走り出し、攻撃を加えんと飛びかかってゆく。


「だからそれはもう見たっての!!」


 シュンは自身の体勢を崩さないように灰魔たちの攻撃を躱し、隙をついて灰魔に攻撃を加えてゆく。その攻撃は的確に灰魔の体を捉え、一撃必殺を体現したかの如く、確実に一撃で灰魔を仕留めていき、灰魔は一体また一体とその数を減らしてゆく。そして、


「これで、最後ぉ!!」


最後の一体の灰魔を斃すシュン。もちろん残身も忘れず他に灰魔が出てこないことを確認すると、「ふう」と一息ついて自身の掌を見つめてギュッと拳を握りこむ。


――確実に強くなってる


 灰魔との連戦は確かに苦しかったが、自身の実力を確認できたことは大きな収穫だ。つい先程まで灰魔の存在に脅威を感じていた自分が嘘のように今は自身に満ち溢れている。


「これだったらあの上級灰魔も斃せるんじゃないか?」


 そんな過信とも言うべき発想がシュンの行動を間違った方向に誘う。


「だったら他の奴らと合流しなくても大丈夫か。ここはあの上級灰魔を斃してモリアの奴の鼻を明かしてやろう」


 そうと決まったら後は行動あるのみ。シュンは森の出口ではなく森の奥へと歩を進めてゆく、そうして数分が経った頃、


「は!!やっと見つけたぜ」


 シュンの目の前には異世界初日に撃退したガーゴイル型の灰魔がいた。 

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