第4話 炎使いと盾使い
「ところでさあ、街道で待ってるケーニッヒ卿?ってどんな人なの?」
森の中を歩きつつ、シュンはメリアにケーニッヒ卿について質問する。メリアの言によればケーニッヒ卿ならば先程までシュンとメリアが苦戦していた上級灰魔を斃せるらしく。一体どんな人物であるのか気になったからだ。
「どんな人って――改めて聞かれると困りますね。一言で言うと煙たい人、ですかね」
メリアの要を得ない回答にシュンは頭の上に疑問符を浮かべる。
「メリア、俺が聞いているのはケーニッヒ卿の人柄についてなんだけど」
メリアは顎に手をやって目線を空に向け、しばらく考え込んだ後、
「人柄……雲みたいな人ですかね」
またしてもメリアの要を得ない回答にシュンの疑問は増すばかり。ただ言えるのはケーニッヒ卿とやらは煙たくて雲みたいにつかみどころのなく、とても強い人ということだ。
「まあもう少しで森を出れますし、実際会って確かめれば良いと思います」
「それもそうか」
アリアの言うことももっともだ。森の外で待っているのならばケーニッヒ卿に会えるまでそう時間はかからない。そうして二人が森の中を歩き続けると、やがて森の出口にたどり着く。
「やっと着いたー」
歩いた時間は30分程度であったが、灰魔との戦闘もあり、シュンの体力はガス欠寸前。その場にへたり込むように座る。メリアもメリアで大魔法を行使したためか疲れが顔に出ていた。
「シュンはここで待っていて下さい。私はケーニッヒ卿を呼んで参りますので」
シュンのことを気を使ってのことか、メリアはシュンをその場で休憩させ、自身は近くにいるであろうケーニッヒ卿を呼んでくると申し出るが、疲れているのはメリアも一緒。シュンは手を前に出して「ストップ」とメリアの歩みを止めさせる。
「メリア疲れているのは君も俺も一緒だ。それに俺はメリアの騎士なんだから一緒にケーニッヒ卿の所へ行こう」
思わぬシュンからの申し出に、メリアはクスクスと微笑んで「そうですね」と返す。そんなメリアの微笑みに見惚れつつ、シュンは重い腰を上げて再び歩き出した。
それからほどなくして、二人が街道沿いを歩いていると馬の姿が遠目に見えた。
「メリアあの馬って」
「きっとケーニッヒ卿の馬です。急ぎましょう」
そう言ってメリアはシュンの手を取る。シュンはメリアの手の感触に頬をわずかに朱に染めてドギマギしながらメリアと共に馬の下へ向かう。
「ケーニッヒ卿!!」
馬のいる所まではまだわずかに距離はあったがメリアは大声を出してケーニッヒ卿を呼ぶ。しかし、馬がメリアの声に反応するのみで人が出て来る気配はない。その様子にメリアは小首を傾げた。
「あれ?」
「もしかしたら全然違う人の馬だったんじゃないのか?」
「そうかもしれませんね。でも確認だけでもいたしましょう」
そう言ってシュンとメリアが馬の元まで駆け寄ると。馬の横の地べたに大の字になって昼寝をしてる40代くらいの男性がいた。
「もしかしてこの人?」
シュンがメリアを横目に見る。メリアはわなわなと体を震わせて拳を強く握っており、シュンはメリアの意外な姿にギョッと目を丸くする。
確かに自分たちが死に物狂いで戦っている間に、このオッサンはこんな場所で眠りこけていたのだ。メリアが怒るのも頷ける。
するとメリアは眠りこけているケーニッヒ卿に近づき息を大きく吸ってその耳元で大声を上げた。
「ケーニッヒ卿!!」
「おっひゃあ!!」
変な悲鳴を上げて飛び起きるケーニッヒ卿。シュンはオッサンの珍しい悲鳴が聞けたなとどうでも良いことを思いながら事の成り行きを傍観することを決めた。
「あれ、巫女様じゃん、もう帰ってきたの?」
「もう帰って来たの?じゃありません!!まったくこちらは森の中で上級灰魔と出くわして大変な目に遭ったというのに、貴方は一体なんのために私に付いて来たというのですか!!」
「だって巫女様が森の中には自分で一人で入るって聞かないし、上級灰魔も巫女様が無事やり過ごしたんだろ?だったら結果オーライ、大団円ってやつさ」
メリアの怒りをのらりくらりと躱すその物言い。確かに雲のようにつかみどころのない人のようだ。
「それで、そこにいる兄ちゃんは一体誰なのさ?」
「この人は……え~っと」
ケーニッヒ卿からの問いにメリアは何やら口ごもっている。どうやら何か言いずらいことがあるらしい。ならばとシュンは一歩前に踏み出してドンと胸を叩いて自己紹介。
「俺の名前はシュン・バンノそこのメリアの騎士になった者です!!」
するとメリアが天を仰いで手で顔を覆い、ケーニッヒ卿にいたっては驚きのあまり口をポカンと開けている。
「およ?」
想定外の皆の反応にシュンは自身がやらかしたことに気付く。
「なあメリア、俺ってやらかした?」
「やらかしもやらかしの大やらかしです。シュンは私の騎士になるということの意味を軽く考えすぎです」
メリアがそう抗議するものの、やらかしてしまったことはもう元には戻らない。
「なあ巫女様なんかの冗談なんだろ、そこの兄ちゃんが巫女様の騎士になったなんて」
「ことの成り行き上しかたなかったのです」
開き直る覚悟を決めたメリアが吐息をこぼしながらそう言った
「マジかよそれじゃあオッサン、アベルの奴になんて説明したらいいの?」
「知りません。草むらで昼寝をしていたと正直に説明してはどうです?」
開き直ったメリアは強い、取りつく島もなしといった様子でケーニッヒ卿の言葉を一蹴する。そんな二人の様子にシュンは苦笑いを浮かべながらもメリアの言葉を
――巫女の騎士になったことを軽く考えすぎ、か
そう言われてもこの世界においての巫女の意味など転生したばかりのシュンにはわからない。しかし、メリアの真剣な表情からもその役職の重さが推し量れるというものだ。
しかし、それはそれ、これはこれ、二人をこのままにしていても話が治まらない。ここはシュンが仲介するしかないだろう。
「まーまー二人とも落ち着いて」
「「お前が言うな!!」」
二人の矛先が今度はシュンに向いた。
「はーしっかし君、一体どこの誰なの?」
「それが……実は俺、記憶喪失なんです」
「はあ!?それじゃあ巫女様はどの誰ともわからない輩に種の加護を与えたのかい?」
種の加護、おそらくメリアがシュンに与えた力のことだろう。
「ちょっと待ってくれ、オッサンもう頭が破裂しそう」
ケーニッヒ卿はそう言いながら胸元にあるポケットから紙巻き煙草を取り出し口に咥えて煙草に火をつける。しかしその手には何も持っていなかった。
「ちょ、今のも魔法なわけ!?」
驚きつつもシュンは目をガン開いてケーニッヒ卿に質問する。
「うんにゃこれは俺のギフトさ」
そう言ってケーニッヒ卿はシュンに自身の掌を見せてそこに火を灯す。
「すげーほんとに何にもないのに火が灯ってる」
シュンは目をキラキラさせながらケーニッヒ卿の灯した火を見つめる。そんなシュンにケーニッヒ卿は紫煙を燻らせながら呆れ顔。
「こんな芸当魔法でも出来るって……本当にどこから来たのさ君」
「だから記憶喪失って言ってるでしょう」
「はあ、こりゃアベルの奴に直接報告せにゃいかんね……」
「私もそう思います……」
「「はあ~……」」
ケーニッヒ卿とメリアが長い溜息を吐く。そんな中シュンは未だにケーニッヒ卿の灯した火を好奇の目で見つめ続けるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます