第3話 キスとギフトと新たな力
突然の事態にシュンの頭は混乱の渦中にあった。この森に転生させられて化け物に殺されそうになって気付いたら今度は美少女にキスをされている。端から見ても意味が解らない。
そんな混乱の渦中、シュンの中に少女を通して何かが流れ込んでくる。それは物理的な何かではない。温かくて優しく、なおかつ力強い何かが流れ込んでくる。
「!!」
それは力であった。このどうしようもない状況を打破できるだけの新たなる力、それが少女を通じてシュンの中に流れ込んできたのだ。
その力が全てシュンに流れ込むと少女はシュンから唇を離し、浅く吐息をこぼす。その顔はうつむいていて表情は読み取れない。しかし、耳まで真っ赤に染めた少女の姿から表情を予測するのは容易であった。
「これで大丈夫です」
少女が顔を赤くしたままシュンに言う。
「今シュンさんにギフトを授けました。それで上級灰魔を斃してください」
「と、言われてもなあ」
シュンは少女の言葉に困惑を隠せない。確かに少女からギフトなる力を与えてもらった。しかしながらその力でこの怪物を斃せるかと言われてもそれは少し無理があるとしか言えないのだ。なにせ、
「君からもらったギフト?なんだけど」
「はい!それを使って早くあいつを斃してください!!」
「盾の力でどうやって斃すのさ?」
「へ?」
今度は少女の方が呆気にとられたような顔をする。
「だから、君からもらったギフト?の正体だよ。どんな攻撃からでも守ってくれる無敵の盾。それが君からもらったギフトとやらの正体だよ」
「じゃ、じゃあその盾を展開したままで街道まで向かいましょう。そうすればケーニッヒ卿が――」
「それも無理だと思うよ、だってこの力回数制限があるもん」
「ち、因みに何回ですか?」
「一日3回」
シュンの言葉を聞いて少女は愕然とする。確かに強力な能力ではあるものの、使える回数が限られている状況で撤退戦をこなすのは非常に困難だ。
「そ、そんな~」
少女は情けない声を出しながらその場にへたり込む。
「お、おい!こんなところでへたり込むなよ」
「だって私の初めてが、たった一回の権能がこんな形で奪われたんですよ!!」
「ちょ、人聞きの悪い言い方すんなよ。それにせっかく待ってくれてる敵にだって失礼だろ!!」
そう言えばこれだけ長話をしていても灰魔の方からは攻撃してこない。それはとても不自然で、不可思議なことだ。少女はそう思いながら灰魔の方を見る。すると灰魔は少女の視線を受けてニヤリと嗤ってみせた。
「失礼もくそもありませんよ!この灰魔私たちがわちゃわちゃやっているのを楽しんで見てるだけです」
「え?そうなの?」
言われてシュンも灰魔の方を見る。当然灰魔はシュンたちを嘲笑している。
「あ、本当だ。モンスターにも感情ってあるんだな」
「のんきにそんなことを言っている場合ではありません。あの灰魔――」
少女がそう言いかけた時だった。少女とシュンのやり取りに飽きたのか灰魔がシュンに攻撃を仕掛けてきたのだ。
「あぶ!!」
咄嗟に灰魔の攻撃に合わせてギフトを発動させるシュン。すると灰魔の攻撃はシュンが創り出した盾に阻まれその巨体を大きくのけぞらせた。
「すげえ、本当に発動したよ」
「当たり前です私の一回きりしか使えない権能を使用したのですから」
「ああ、だけど」
攻撃を弾くだけじゃあこの怪物を斃せはしない。ならばどうする。シュンは灰魔が体勢を立て直している間に考えるだけ考える。この盾に出来ることは本当に防ぐだけなのだろうか?現に今灰魔の体勢を崩すことに成功した。ならば力の矛先を逸らすことも可能だということだ。
「よし!」
シュンは考えをまとめ作戦を練る。これは賭けだがまだ盾の使用回数は2回ある。そのうちの一度くらい試しで使うのも有りだろう。ならばあとは作戦内容を
「そこの君!」
シュンは未だ少女の名を知らないそれ故に君とだけ少女に向かって声をかける。
「なんですか?」
「少し俺の作戦を聞いてくれないか」
「作戦、ですか」
首を傾げる少女にシュンは簡潔に作戦を伝える。すると少女は目を見開いて口をポカンと開ける。
「貴方知らないんですか!?魔法は上級灰魔には通じないのですよ」
「でもきっとうまういく気がするんだ。だから、頼む!!」
そう言って少女に向かって拝むように手を合わせるシュン。その様子に少女は吐息を一つこぼして了承する。
「仕方ありません。貴方の作戦とやらに乗ってあげます。その代わり失敗したら今度は二人で一緒に全力疾走ですよ」
「おう!!どーんとこい!!」
シュンがそう言うと少女は魔法の詠唱を開始する。
「天の嵐神よ、その息吹を我が剣、我が槍、我が斧鉞とし我が障害のすべてを祓いたまえ――シュンさん!!いっきますよー!!」
少女の合図と同時、シュンは少女と魔物との間に入り込んで腰を据える。すると、その異常に気が付いたのか灰魔が慌てたようにシュンに襲いかかる。
「は!!もうおせぇよ!!」
「ブレイブテンペスト!!」
少女が魔法名を言い放つと渦を巻く凄まじい突風の塊がシュンめがけて放たれた。シュンはその魔法に合わせて盾を展開、盾が魔法を受けると同時に自身の左手を灰魔に向ける。すると展開された盾が灰魔の方に向き、同時にシュンの受けた魔法が灰魔めがけて突き進む。
「ドンピシャだおらぁ!!」
しかし、灰魔の方は余裕の笑みをこぼす。それも当然だ。上級灰魔には魔法は通じない。しかし、この場合は別だった。灰魔は魔法無効化の障壁を展開させる。しかし、シュンが逸らした魔法はどういうわけか灰魔の魔法障壁を素通りして魔法が灰魔に直撃した。
「ぐぎゃああああ」
魔法が直撃したことにより灰魔は遥か彼方に吹き飛ばされて行く。
「いよっしゃあ!!俺様の作戦勝ちぃ」
賭けに勝ったシュンはガッツポーズをとりながら勝利の雄たけびを上げる。
「全くどうなることかと思いましたよ」
灰魔が遥か彼方まで飛んで行ったことを確認した少女はシュンの下に駆け寄ると吐息をこぼしながらそう言った。
「危機は去ったんだ。結果オーライだろ?」
「それにしても驚きました。盾で逸らしただけの魔法が上級灰魔に通用するなんて」
「おう、俺も最初にあいつの攻撃を受けた時に気付いたんだよね。俺が盾を展開してあいつの攻撃を受けた時に何の衝撃も受けなかったんだ。だからきっとこの盾の能力はすべての攻撃を受けきって、その衝撃をそのまま相手に返す能力なんだって」
「それは……反則級の能力ですね。回数制限があるのも頷けます」
「だろ?」
そう言ってニカっと笑うシュン。その笑顔につられるように少女も笑みをこぼす。二人で笑い合っているとシュンが突然「あ」と何かを思い出したように言う。
「そう言えば俺、君の騎士になったんだよな」
「シルメリアです」
「ん?」
「私の名前、シルメリアって言います。親しい人はメリアって呼びますけどね」
「俺のこと信頼できないんじゃなかったっけ?」
「信頼を置けない人を私の騎士にした覚えはありません。だから貴方のこともシュンって呼びますね」
「お、おう」
突然の異性からの名前の呼び捨てにドギマギしてしまうシュン。少女――メリアはそんなシュンを見て「変な人」と言ってクスクス笑う。
「それじゃあこんな森出てしまいましょう。シュン」
メリアはシュンに向かって右手を差し出し、シュンはその手をドギマギしながらも握って返す。
「ああ、そうしようメリア」
こうしてシュンの異世界生活が始まったのであった。
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