第3章 サグルとチユと臆病『治癒師』
第12話 サグルとミリアと辻ヒーラー
【うおおおおおおおお!!】
【すげええええええ!!】
【かっけえええええ!!】
【つっよ!!】
【サグル最強】
サグルの勝利にコメント欄も大いに沸き立ち、視聴者のテンションも最高潮に達していた。
「ナイスです!!サグル君!」
サグルの勝利を確認したミリアもサグルの元に近づいてサグルの背中をバシンと叩きその勝利を祝うが、サグルからの反応が何もない。
「サグル君?」
【?どしたん?】
【どうしたサグル?】
【反応しろよ】
【おい、大丈夫か?】
ミリアは一向に反応を返さないサグルの表情をうかがう。すると、サグルは目は虚ろでどこも見ておらず、明らかに意識が今この場にないような状況であった。
「サグル君!!」
このままではマズイと直感的に感じたミリアはサグルの名を強く呼び、武器を持ったままのその両手を強く握る。
――なんて力
ミリアはサグルの手を握ってその力に改めて驚愕する。
「ミリア……さん」
「!?そうです。ミリアですよサグル君」
サグルは虚ろな目のままミリアの方を向く。
【サグル!?】
【元気か?】
【大丈夫か?】
【話せるのか?】
【大丈夫か?】
視聴者たちもコメントでサグルのことを心配している。
「サグル君、大丈夫なんですか?」
「大丈夫って何が?」
「何がってサグル君、目も虚ろで手だってガチガチに固まってるし……」
「手?」
言われてサグルは自身の手に視線を移す。両手とも武器を持ったままだ。
「あれ?本当だ手が動かせねぇや……」
サグルは自嘲するように笑う。そんなサグルにミリアは焦りの色を濃くする。
「笑ってる場合じゃありませんよ。外傷はそんなにないみたいですけど、両手の内出血がすごいですし、意識も朦朧としてるじゃないですか!!早く治療を受けるべきです」
言いながらミリアは必死になってサグルの手から武器を引き剥がす。するとそんな時であってもサグルとミリアのウィンドウから通知音が鳴り響いた。
「――今度は何ですかもう!?」
ミリアは悪態をつきつつもウィンドウを確認する。
「ボスの撃破報告?そんなものは後回しです。今はサグル君を一刻も早く休ませないと」
そう言ってサグルの手から武器を手放させると。サグルの肩を担いでボス部屋を後にする。
「確か11層には外に通じる
確かにダンジョンには11階層21階層と10階層毎にダンジョンのそとに通じる
「ええと、どうしよう、どうしようどうしようどうしようどうしよう」
【ミリアちゃんとりあえず深呼吸】
【ミリアちゃん落ち着いて】
【ダメだコメントを読む余裕すらなくなってる】
【マズくねこれ】
視聴者たちの必死の呼びかけにもミリアは反応をすることが出来ない。
そんな中、
「だ、誰ですか!?」
ミリアが何者かの気配を感じて暗闇の向こう側を誰何する。すると暗闇の中から赤色のローブを着た何者かが現れた。その何者かはローブのフードを目深に被っており、その表情は読み取れない。
そんな見るからに怪しい人物の登場にミリアの警戒心は全開、インベントリから大戦斧を取り出そうとする。
「大丈夫、敵じゃない」
そう言ったのはローブの人物、その声からして若い女性と推測される。しかし、それだけではミリアの警戒心は解けたりしない。
「敵じゃないって言うのならば貴方は一体何なんです?」
「辻ヒーラー」
辻ヒーラーとは主にMMORPGにおいて見知らぬプレイヤーを無償で治療する者のことであるが、この世界においてはその意味が多少変わってくる。
「だったらサグル君――この人のことを見てあげて下さい。治療費だったらちゃんとありますから!!」
そう言ってミリアはサグルをその場の床に寝かせる。すると辻ヒーラーを名乗る女性はサグルの容態を見て訝しげに言う。
「ちょっと貴女たちレベルは一体いくつなの?スケルトンキング相手にここまで重傷を負うなんて考えられないわ。もしかしてRTAでもしていたのかしら?」
「そんなことありませんよ!!なにも知らないのに好き勝手言わないで下さい!!」
ミリアがそう反論すると辻ヒーラーはミリアの真剣な表情から何かを察して小さく「そうね、謝るわ、ごめんなさい」と言って頭を下げる。
「今から治療を始めるから貴女は周辺のモンスターを警戒していてちょうだい。」
「はい、わかりました」
辻ヒーラーはミリアにそう告げてサグルの治療を始める。辻ヒーラーの腕は確かなようで、治癒の魔法を使い始めるとものの数分でサグルの両手を完治させる。
「はわ、すごい」
「これぐらいヒーラーなら当たり前よ。ところで貴女たちポーションの類いは持って来なかったの?」
「一応持ってますけど」
「けど?」
「ポーションって直接飲まないと効果がないんですよね」
「確かにポーションは直接飲まないと効果はないわ。だけど貴女、彼は一応貴女の仲間なのでしょう?」
「一応なんて浅い仲じゃないですよ!!」
「だったらなおさらのこと、彼のことを思うのであれば口移しでも何でもしてポーションを飲ませてあげるべきだったんじゃないの?
「口移し!?」
辻ヒーラーの指摘にミリアの顔が真っ赤に染まる。
「そんな、私たちまだあって間もないですし、つ、付き合ってもいないのに……」
そう口ごもるミリア。しかし、
「彼と貴女がそんな仲だとかないとかそんなことは関係ない。生かすか殺すかの話を私はしているの」
辻ヒーラーはそう言って立ち上がると
「治療は終わったわ。意識の混濁については魔力の使いすぎが原因だから今後魔力を使う時は魔力が0になるまで使わないよう彼に伝えておきなさい」
「あ、はい…ありがとうございます」
そう言ってお金を渡そうとするミリアの動きを制する辻ヒーラー
「私は基本的にダンジョン初心者を相手に商売をしているのだけれど、初心者未満の相手からお金を取ろうとは思わないわ」
「え?」
「つまり貴女たちはタダで良いって言ったの。少しでも悔しいと思う心があるのなら、今回のことはしっかりと反省することね」
辻ヒーラーはそれだけ言うとミリアたちを残してその場から立ち去るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます