第13話 サグルとミリアと探索者としての覚悟

「そんなこと言ったんですよあの女!!」


 言いながらミリアは大ジョッキグラス(中身はジュース)をテーブルの上に叩きつける様に置く。

 辻ヒーラーの件の後、ミリアは意識の戻ったサグルを連れてゲートを発見。そのまま地上に戻り、現在は探索者ギルド内で休息をとっていた。


「でも、その人のお陰で俺も全快したわけだし、それにお金だって取られていないんだから良い人なんじゃないかな?」

「それは……そうですが、それにしたって最後のは無いでしょう」

「何がだ?」


 ミリアの荒れようを聞き付けたのか、ミリアの後ろからリリィが現れた。


「リリィさんよくぞ聞いてくれました!!」


 勢いに乗ったミリアが今回の辻ヒーラーの件について子細に話す。するとリリィはウンウンと頷いて、


「そりゃあミリア、お前さんが悪い」


と、きっぱり言ってのけた。


「な!?」


リリィの言葉にショックを受けるミリア。しかも周りをよく見てみれば他の探索者たちまで集まって来て皆が一様にリリィの言葉に賛同してウンウンと頷いている。


「なんですかリリィさん、それに皆さんだって!!」

「そんじゃあミリア、今回の件もしもその辻ヒーラーが現れなかったら一体お前さんはどうしていたんだ?」

「どうしてたんだ、嬢ちゃん」

「どうしたんだ、嬢ちゃん」

「どうしてたんですかお嬢さん」

「それは……もちろん!!私の素晴らしい力を駆使してサグル君を安全な場所に運んでから」

「から?」

「から?」

「から?」

「から?」

「そのままサグル君の回復を待ちます……」


 恥ずかしそうにうつむいて答えるミリア


「か~、結局それかい!!」


 リリィが呆れたように言うと、他の探索者たちまで追従するように言う。


「今までの話の意味が全くねえな、嬢ちゃん」

「ありませんねお嬢さん」

「うぅぅ……」


 ミリアがぐうの音もでないでいると更にリリィが言う。


「あのなぁミリア、事態は急を要してたんだぞ?そこのアホは気づいてねぇだろうけど、魔力が切れによる意識の混濁に両手の決して浅くはない怪我。はっきり言って死ぬ寸前だ」


「え!?そうだったの?」

「そうだよアホンダラ!!兎に角このアホは死ぬ寸前、そんな時に一人しかいない相棒が「恥ずかしいからそんなこと出来ないです~」だぁ!?」


 そこまで言ってリリィはミリアの胸ぐらを掴み顔を近づけて凄む。


「お前、探索者舐めてんのか?」

「うぅ……」


 リリィはつかんだ胸ぐらを乱暴に離す。


「けど、ま、私もお前さんと同じ女の子だ。お前さんの言いたいこともわかる」

「おいおい姐さん女の子って年じゃあ――」


 迂闊な言葉を発した探索者は次の瞬間にはギルドの壁と熱い口付けを交わしていた。


「で、だ。私から一つアドバイスだ……」

「ア、アドバイスですか?」


 リリィはニヤリと怪しい笑いを浮かべるとミリアに何やら耳打ちする。と、ミリアの顔がみるみる内に赤みを帯びていくのがわかる。


「な、な、な……」


 そしてリリィは耳まで赤くしたミリアの耳に優しく吐息をかけるとミリアに向けてウィンクし、


「な?」


と、イジワルな笑みを見せミリアはミリアで吐息をかけられた耳を両手ので押さえながら、


「そんなこと出来ません!!」


とギルド中に響き渡るような大声で叫ぶのであった。


「リリィさんあんまりミリアさんのことを虐めないで下さいよ」


 サグルが呆れ半分といったようすで言う。


「あん?なぁサグルよお、私は別にミリアだけを虐めてるつもりはないんだよ」


 虐めてる自覚はあったのかとサグルは思うがそれを口には出さない。


「なんせこれはお前たちパーティーの全体の問題なんだからな」


 確かに、とサグルは思う。今回はたまたまミリアが標的となったが、本来というか通常であればタンク役であるミリアが怪我をする確率の方が遥かに高いのだ。で、あれば


「ミリアさんが立った立ち位置に俺が立つことも十分にあり得るということですね」

「まぁ最後に決めるのはお前らだがな。どちらにせよ後悔しない道を、となったら自然と取るべき道は見えてくるはずだぜ」

「取るべき道、ですか……」


 確かにリリィの言う通り取るべき道なぞとうの昔に決まってはいると言っていい。だが、サグルがそんなことを考えながらミリアの方を意識して見ると、ミリアの方も丁度サグルと同じことを考えていたらしく、ミリアとサグルは目が合い、互いに赤面してバッと目を反らす。


「こりゃポーションの件よりもヒーラーを見つけた方が早いかもな」


 呆れながらヤレヤレと首を振るリリィ。


「「それだ!!」」


 とサグルとミリアが同時に反応する。


「それだ!!って、お前らフリーのヒーラーに心当たりでもあるのかよ?」

「「ありません!!どーしたらいいでしょう?」」

「二人揃って言いきるなよ。たく……」


 リリィは呆れ顔でそう言いつつ、ギルドの内の他の探索者たちを見渡し、


「おい、お前ら!お前らの中でフリーのヒーラーかフリーのヒーラーに心当たりがあるやつはいるか?」


と、聞いてみるがどの探索者も心当たりがないのか互いに顔を見合わせる者ばかりだ。


「んだよ誰も心当たりはねーのかよ――と言うわけでサグルとミリアここは大人しく覚悟を――」


 リリィがそこまで言ったところでギルドの入り口が開かれリリィの顔が一瞬で受付嬢然とした変わる。


「いらっしゃいませ。ゴライアス探索者ギルドへようこそ」


 その変わり身の早さサグルとミリアは呆気に取られるが他の者はいつものことと気にも止めない。そしてリリィはギルドに入ってきた探索者たちを見ていつも通りの態度に戻る。


「なんだ手前ぇらかよ、愛想よくして損したじゃねぇか」

「それはひどいなぁリリィさん。せっかくの同胞の帰還につれないじゃないか」

「はいはい、お疲れお疲れ」


 テキトーに探索者の相手をするリリィをよそにサグルは探索者の言ったある言葉に反応を示す。


「同胞?」


 するとリリィがニヤリと笑って言う。


「ああ、そういや約束だったな。サグル、コイツらが女神打倒派のクラン『ウルスラグナ』のメンバーだ」

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