第10話 サグルと『撮れ高』とワイトキング①

「――――!!」


 スケルトンキング改めワイトキングが再誕の産声をあげる。


【何だあれ?】

【ヤバイヤバイ】

【なんでワイトキングが出てくんだよ】

【逃げろサグル!】


 ワイトキングの危険さを知るリスナーたちはサグルに警戒を促す。が、


「逃げろったってここはボス部屋だぞ!?」

「ヤバイですよサグル君アイツはワイトキング、ダンジョンの中層に出てくるモンスターです!?」

「中層!?ってことはレベルは?」

「だいたい30から50の間です」

「マジかよなんで!?」


 そこまで言ってサグルは気付く、自身の持つスキル『撮れ高』の存在、そしてその悪辣さについて。


「クソ、何が撮れ高だ!!こんなのただの不幸の押し付けじゃねぇか!!」


 サグルが悪態をつくが既に状況は刻一刻と動き続けており、ワイトキングがその掌を再びサグルに向けてくる。


「サグル君危ない!!『挑発』!!」


 ミリアが『挑発』のスキルを使用してサグルに向いていたワイトキングのヘイトを自身に向け、ヘイトをミリアに移されたワイトキングはその掌をミリアに向ける。瞬間、ミリアの足元に魔方陣が出現、それを確認したミリアは


「そう来ると思ってました」


 言ってその場からバックステップで後退し、


「チャージ!!」


 新たに得たギフト『チャージ』を使って力を溜め、魔方陣からモンスターが出現すると同時、


「えい!!」


とチャージの乗った大戦斧による一撃を出現したモンスターたちに喰らわせる。が、


「!?」


 たった一体されど一体のモンスター、ワイトナイトが残される。

 その上、ミリアの一撃により体力を半分以上削られたワイトナイトは


「――――!!」


 第2段階に突入し、ミリアに向かって剣を構えながら突進


「やっば!?」


 ミリアはその突進を寸前のところで大戦斧でガードする。


「クウゥゥゥゥ……」

「ミリアさん!!」


 ミリアの窮状にサグルは咄嗟にミリアの方に向かおうとする。が、


「サグル君!!」


とミリアがサグルの名を呼び、サグルの行動を制する。


「私は大丈夫です。だからサグル君はワイトキングを!!」


 そう言ってサグルの加勢を断り、ワイトナイトとの戦いを続行、そしてサグルは


「誰か!!」


と叫び、


「誰かワイトキングの情報をくれ!!」


とリスナーにワイトキングの情報を求める。が、しかし、


【ワイトキングは中層に出てくるモンスターで】

【確かにスケルトンキングとは違って接近戦に強くて】

【中層を探索しているパーティーでも出来れば遭遇したくないモンスター第1位】

【兎に角、厄介なモンスターってことだ】


と役に立つのか立たないのか微妙な情報ばかりであった。が、


【ガンバレサグル】

【お前ならなんとかなる!!】

【勝てるぞサグル】

【諦めなきゃ負けじゃねぇ!!】


 そう言って皆必死にサグルたちのことを応援する。

 サグルはその応援コメントを横目に「フッ」と微笑み


「だったら負けられねぇなぁ!!」


 そう覚悟を決めて、ネクローシスを持つ手に力を込め、ワイトキングに突進して行く。するとワイトキングはなにもない空間に手を突き入れ、その中からミリアの持つ大戦斧並みの大きさを持つ戦斧を取り出した。


「な!?」


 あまりに巨大な戦斧の出現にサグルは動揺し、ワイトキングはサグルの動揺に漬け込むように次の瞬間にはその戦斧を両手でサグルに向けて振るう。

 サグルはその一撃をすんでのところで躱してワイトキングと交錯する瞬間にネクローシスによる一撃を加える。


「よし!!」


 そうサグルは自身を鼓舞するが正直なところ危なかった。今朝方ミリアと共にパーティー戦の練習を行い、大戦斧の間合いの長さを確認していなかったら今の一撃で終わっていた。

 そう考えるとサグルの剣を持つ手がカタカタと震える。これが死の恐怖?それとも武者震い?その区別は今はつかないがサグルが必死なのは誰が見ても理解出来た。



 場面は移り変わってミリア対ワイトナイト戦、この時両者は膠着状態に陥っていた。

 方や規格外の重量と固さを持つ大戦斧をこれまた規格外の膂力を用いて片手で振るうミリア。方や堅牢な防御と攻撃でミリアの隙をうかがうワイトナイト。

 両者の実力は拮抗し、先に動いた方が動きを対処されて負けてしまう。それが故に両者共に動けなかった。


「ちょっとは動いてもいいんですよ」

「……」


 ミリアがワイトナイトに話しかけるがワイトナイトは動かない。ただ機を待つのみだ。しかし、それはミリアも同じ、どうにかワイトナイトが先に動いてくれないかと機会をうかがいながら自身の足を一歩前に出す。するとワイトナイトは一歩後退する。

 そこでミリアはワイトナイトの立ち位置を確認、とある考えを実行に移す。

 自身の一歩踏み出してみる。するとワイトナイトも更に一歩後退する。それを数度繰り返したとき、ワイトナイトの背にボス部屋の壁が当たった。瞬間、ワイトナイトの気がボス部屋の壁にそれ、当然それは致命的な隙をさらすことになり、その隙をミリアは見逃さない。


「でりゃあ!!」


 ミリアの大戦斧による横なぎの一閃、しかし、ワイトナイトはその一閃を盾で防御してみせる。するとミリアは、


「こんの!!」


と怒りの形相をみせ、大戦斧を持つ右手に更に力を込め、


「クソ――が!!」


と悪態一閃、盾ごとワイトナイトを反対側の壁まで弾き飛ばした。


「よっしゃあ!!」


 グッとガッツポーズを決めるミリアであったが、


「え!?」


 普段の可憐さとは正反対の勇ましい姿を何故かサグルの配信画面が捉えていた。


【ミリアちゃん?】

【ミリアちゃん?】

【もしかして怖い人?】

【男前過ぎww】

【惚れそうwww】

「え、ちょっとなんでサグル君じゃなくて私の方を撮ってるんですか!?」


 急な事態に戦闘中であることを忘れてしまうミリア。


「私はいいからサグル君の方を撮ってくださいよもー」

【慌てるミリアたんカワイイ】

【カワイイ】

【かわいい】

【ゲキマブ】

「リスナーさんも意地悪しないでくださいー」


 戦闘は継続中だというのにそんな緊張感のないやり取りを行うミリアであったが、そんな特大の隙を逃すモンスターなどいやしない。


「あ!!そうだリスナーさん」


 片手を失ったものの未だ戦意の尽きないワイトナイトが、


「一ついいこと教えてあげますね」

【え!何々?】

【教えて教えて】

【教えてくれ】

【知りたい!!】


 ミリアに向かって飛びかかる。


「それはですね、戦闘中に突然敵がふざけだしたら余程余裕のあるバカか」


 対してミリアは待ってましたと言わんばかりに大戦斧を振り上げる。


「罠をはってるずる賢いやつしかいないってこと――」


 一度地面から足を離してしまったワイトナイトはその体勢を保ったままミリアに向かって飛んで行き、ミリアの大上段からの一撃がワイトナイトを真っ二つにカチ割った。


「です!!」


 言ってキメポーズまで決めるミリア。


【お、おう】

【おおう】

【お、おう】

【おっふ】


 コメント欄の視聴者もどう反応したら良いのかわからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る