第8話 サグルとダンジョンと本心

「うりゃ!!」

「ピギャー!?」


 ミリアが購入したての大戦斧を振るいスライムを真っ二つに叩き切り。


「よいしょ」


 返す刀でスケルトンの頭蓋骨を叩き割る。その勇猛果敢な姿をサグルと視聴者たちは呆然と見つめていた。


【え、強】

【なんであんな大きさの斧が振れるんや】

【しかも片手で】

【なんかモンスターが可愛そうに見えてきた】

「え、俺、いらなくね」

【そうだな】

【そうだな】

【まぁ、そう言われれば】

【いや、そんなことないぞ】


ミリアのあまりに凄まじい活躍ぶりに自身を失いかけていたサグルに正直過ぎるコメントが突き刺さる。が、その中にでただ一つの肯定的なコメントがサグルを優しく抱き上げ、


【ミリアちゃんを写すカメラマンとしてなwww】


思いっきり叩き落とされる。


「ちくしょう、だったら俺も戦闘に参加して――」

「もう終わりましたよサグル君」


そんなこんなでチームSAGURU TVの初ダンジョンアタックはミリアの目覚ましい活躍により次々と階層を重ねて行き、なんとダンジョンに潜りだしてからたったの半日で10階層に到着。これはサグルが6階層~10階層を知り尽くしているとはいえ、十分に驚異的な早さでの攻略となっていた。


「あ!レベルアップした!!サグル君、私レベル5になりましたよ!!」

【おめでとう】

【おめでとう】

【おめでとうございます】

「おい、なんかお前ら俺の時より丁寧じゃないか?」

【チッ!これだから男は】

【嫉妬はみっともないぞサグル】

【いいからちゃんとカメラマンしとけよ】

「終いにゃ泣くぞ俺!!」


そんなことを言いながらコメント欄と楽しそうにじゃれ会うサグル。


「サグル君は本当にコメント欄のリスナーさんとじゃれ会うのが好きですねぇ~」


 屈託のない笑顔でそう言うミリアに、サグルは図星を突かれたのか頬をわずかに朱色に染める。


「いや、今までのコイツらとのやり取りを見ててもそうはならんでしょ」

【サグルきゅん】

【サグルん】

【サグルたん】


と、コメント欄も悪のりしだす。


「ほら、ミリアさんが変なこと言うからリスナーがふざけだした」

「ふふ、そうですね」

「なにその私はわかってるんですよ的な笑顔は」


 ミリアはサグルの突っ込みを無視する。


「それじゃあ2週目まいりましょー」

【オー】

【オー】

【オー】


 チームSAGURUTVミリアレベリングマラソン2週目


「よいしょっと。あ!戦士のランクが2に上がりました!!」

「それじゃあ今日はここまでにしようか?」

「そうですねレベル的には少し中途半端ですけどそうしましょう」

「ミリアさんちなみにレベルは?」

「7ですね。サグル君はどうです?」

「俺はあと少しでレベル13に上がるかな?ってくらい。ヤッパリモンスターとのレベル差がありすぎると獲得経験値がだいぶ落ちるみたいだ」

「その分私とサグル君のレベル差が埋まりやすいんですけどね。それでサグル君今夜の夜営は?」

「う~んそうだな。5層のボス部屋前と10層のボス部屋前にちょうど夜営ができるスポットがあるんだけどミリアさんはどっちが良いと思う?」

「5層のボス部屋前ですかね。ちょうどここからも近いですし、もし、寝込みをモンスターに襲われたとしても10層のモンスターより対処がしやすそうですし」

「だね、それじゃあ5層まで行くことにしようか」

「はい!!」


―――チームSAGURUTV本日の成果


スライムゼリー 大量

スケルトンの骨 大量


ステータス


サグル(虎穴 探)レベル11

Job『配信者』ランク2

保有スキル

「数は力也」……自身のチャンネル登録者数及び動画の総再生回数によってステータスにプラス補正が付く。

「撮れ高」……自身が行ったラック依存の行動にラック値プラスマイナス極大の補正がかかる


ミリア(神裂 ミリア)レベル7

Job『戦士』ランク2

保有スキル

「挑発」……自身の周囲の敵のヘイトを自身に集める

「チャージ」……力を溜めて次の攻撃にプラス補正を付与する


―――


チームSAGURU TV ダンジョンアタック2日目


「『挑発』です!さあかかってきなさい!!」


 チームSAGURUTVダンジョンアタック2日目、この日は素材(資金)に余裕が出てきたため、それまでのサーチアンドデストロイ作戦を変更し、パーティーらしくダンジョンアタックをしようとのサグルの決定によりミリアを前衛(タンク)サグルを後衛(アタッカー)として運用するチームワークの訓練を開始した。が、

 サグルがスライムとスケルトン構成されたモンスターの群れをすべてネクローシスによる一撃で仕留める。


「う~ん、やっぱり上手く行かないもんだね」

「はい、私がいくら『挑発』のスキルでヘイトを集めてもサグル君が全部一撃で仕留めちゃうから全然防御の練習が出来ません」

「ちなみにミリアさんのレベルは?」

「もう10になりましたよ」

「となるともう10層のボスに挑んだ方がいいのか?」

【その方がいいだろ】

【二人とも強いし楽ショーだろ】

【勝てる勝てる】


 コメント欄の視聴者も次のステージに進むことを進めてくる。


「10階層のボスって何だっけ?」

「スケルトンキングですね。自分の周囲に手下を召喚して戦わせる後衛タイプのボスです。弱点は接近戦に弱いことですね」

「ミリアさんは本当に詳しいね」

「これぐらい探索者を目指す者の基礎中の基礎ですよ」

【だとよサグル】

【サグル君探索者なのにそんなことも知らないの?】

【基礎中の基礎だぞ】

【無知蒙昧なりサグル】

【サグル君さあ】

【探索者志望なら知ってて当たり前】


 相変わらずサグルに対して辛辣なコメント欄、サグルもいつもならばこの程度のコメント気にも止めない。ただ、


「それは言い過ぎだろうが!それに俺は!!」


 そこまで言ってサグルはそれ以上の言葉を続けることを止める。なぜならそれ以上の言葉は既に過ぎ去った過去のことなのだから……


「俺は……何ですサグル君」

【何だよ】

【何だ?】

【………】

「何でもない」


 言ってサグルは黙り込んでしまう。サグルの脳裏には過去への怒りや憧憬などといった感情が去来し、叫びだしたい気持ちになっていた。なんで俺なんだと、なんで希望していない俺なんだと、なんで加藤の奴じゃなかったんだと。しかしサグルは叫ばないそんなこと何の意味もないことだとわかっていたから。


「サグル君!!」


 ふとサグルが気が付くと目の前にサグルの顔を心配そうにうかがうミリアの顔があった。


「サグル君、一度配信を切りましょう」

「え、なんで?」

「いいから私の言う通りにしてください。リスナーの皆さんも少し待ってくれますよね」

【おう】

【待てる】

【待ってる】

【ごめん、サグル】

【待ってる】

「ほら、リスナーさんたちもこう言ってますし、いったん配信を切りましょ?」


 ミリアはまっすぐとサグルの目を見てそう提案する。


「わかった」


 サグルはミリアの提案を了承すると、配信ウィンドウを操作して配信画面を切る。するとミリアの方からサグルに語りかけてきた。


「サグル君どうしたんです急にあんなに大きな声を出して、私サグル君との付き合いは間だ短いですけどらしくないように見えました」

「ゴメン、コメントの中にどうしても我慢できないコメントがあってさ……」

「それって何てコメントなんです?」

「探索者志望なら、ってコメント。俺って実は探索者になりたくてここに来た訳じゃないんだよね」

「それってもしかしてあのクソババ――女神絡みですか?」

「うん、その通り、なんだけどきっかけは友達かな。友達が勝手に探索者の応募フォームに俺を応募したんだよ。それがきっかけで女神に見つかって召喚されたってオチ」

「……それはまた大変な目に遇われたんですね」

「ミリアさんほど大変な思いはしてないけどね。でも、正直女神も加藤の奴もどっちも許せないって気持ちはある」

「だったら……両方ともとっちめてやりましょうよ」

「でも……加藤は友達なんだぜ」

「それでもです。いくら友達だからって勝手に友人の人生を変えるようなまねは許せません。ギルティです」

「そっか、そうだよな」


サグルはミリアの言葉を聞いて何か憑き物が落ちたかのようにスッキリとした顔になり、ミリアに向けて微笑むとミリアも微笑み返す。


「そうです、だからさっさとこのダンジョンを攻略しちゃって、女神を倒して、そんでもってその加藤さんとやらもとっちめてやりましょう!!」

「ああ!!」


そして二人は決意の握手を交わすのであった。

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