第7話 サグルとオタクと大戦斧
サグルとミリア2人はあの後すぐにダンジョンを脱出(5階層ボスはサグルが難なく倒した)ミリアのJobを決めてダンジョン探索用の装備を購入するべくゴライアスの街まで戻って来ていた。
「それでサグル君、私たちは今からどこへ向かうのですか」
「
「ハローワークなんてこの世界にもあるのですね」
「俺も最初に聞いたときは自分の耳を疑ったけどね」
「そこで私のJobを決めようと言うわけですか」
「そ、ちなみになんだけどミリアさんは希望のJob――」
「戦士一択ですね!!」
食いぎみにミリアが言う
「なんでまたせ――」
「だってサグル君、戦士と言えばパーティーの要であるタンク役、タンクがいなければアタッカーだってヒーラーだってなんの役にも立たない木偶の坊と化すんですよ。ああ、言い過ぎでしたねすみません。だけどタンクのいないパーティーなんてあり得ないタンクこそ至高、タンクこそ究極。その証拠に私調べですけどタンクのいるパーティーといないパーティーを比べたときにタンクのいるパーティーの方が生存率が100%高いんです。これは嘘ですけど。テヘ!でもまあそれくらい私はタンクになりたいんです。タンクにタンクに!!タンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンクタンク!!!!」
あまりに狂気じみたミリアの様子にたじろぐサグル。
「ミリアさんは本当にタンク職が大好きなんだね」
「大好きなんてものじゃあありませんよ。聞いてくださいサグル君。世界の名だたる探索者の半数がタンク職ですし、日本の人気ダンジョン配信者不動の一位であるあの
「いや、俺に言われても……」
「ですよねですよね。でも今はハローワークでタンクになることが先決です。それではハローワークにレッツゴーです!!」
「成りました!!」
「早!?もう戦士になれたの?なにかイベントとかお祈り的なものとかはなかったの?」
「もーゲームじゃないんですからそんなことありませんよチョチョイと転職の宝物とやらに触れば転職なんてワンタッチで出来るんですから」
「そ、そうなの?」
「そうなんです!!それじゃあ次は武器屋に行って戦士の装備を揃えるとしましょうか!!」
そう言ってミリアはサグルの前をズンズンと歩き出す。
「ちょ、ミリアさん武器屋の場所知ってるの?」
サグルはそんなミリアの後を追って走り出す。するとサグルが街路の交差点に差し掛かったところで
「キャッ!?」
「うわ!?」
サグルは誰かとぶつかってしまう。
「す、すみません前をよく見ていませんでした」
言いながらサグルは倒れてしまった相手に向けて手を差しのべる。
「い、いえこちらこそ」
サグルがぶつかってしまった相手、それは燃える炎を思わせる赤色の髪をショートカットにした眼鏡をかけたミリアとはまた別のタイプの美少女であった。
少女は手を差しのべるサグルと目を会わせようとはせずに俯いたまま差し伸べられた手を掴むと。
「すみません」
と何度もお辞儀をしてその場を去って行く。
「あ、ちょっと」
サグルは少女を引き留めようとするが、間に合わずに少女は去っていく。
「ちょっとー、サグルくーん!」
遠くの方でミリアがサグルのことを呼んでいる。
「ああ、今行くよ」
サグルはそう返事をしながらも赤い少女が去って行った方向に視線を送る。
「今の人――」
「サグルくーん!!」
「わかったって!!」
そう言ってサグルはミリアの後を追うのであった。
それからサグルたちはまず防具屋を訪れてミリアの防具を購入、購入した物はタンクらしくプレートメイル、等ではなく動きやすい皮鎧。これはミリア曰く
「私、受けタンクじゃなくて回避タンクなので」
とのことで、サグルには受けタンクや回避タンクの区別がついていなかったため、装備の類いについてはミリアに任せることにしたのだが、
「マジでこれを使うの?て言うか使えるの?」
「マジです。大マジです」
などと言いながら武器屋にあるとある武器の前で話し合い。
「いや、マジで買うけど使えませんでしたってオチはマジ勘弁してくれよ」
「大丈夫です任せてください」
「そこまで言うなら……」
サグルは武器屋に立て掛けられたとある武器――大戦斧を横目に怪訝な表情で了承する。
その大戦斧はかなりの大きさで30キログラムば優に越えており、サグルの強化された膂力をもってしても自在に扱うことは難しいだろう。
「やった!!それじゃあお会計してきますね」
ミリアはそう言うとあろうことかその大戦斧を片手でひょいと持ち上げてスキップしながら会計まで持っていく。
これにはサグルも武器屋の店主も目を丸くしていた。そして……
―――
「それじゃあ皆さん、SAGURU TVの本格始動ですよ~!!」
【イエーイ】
【イエー】
【うおおおおおお!!】
【うおおおおおお!!】
【カワイーーー】
サグルの配信ウィンドウの前でリスナーに向かってキメポーズを決めるミリア。サグルはそんなミリアのテンションに置いてけぼりをくらっている。
「あ、あの、ミリアさん?」
「何でしょうサグル君」
「チャンネル主の俺より前に出るのは別に良いとして、なんでそんなにテンションが高いの?」
「サグル君これにはふか~い理由があるのですよ」
ミリアは腕を組んで瞑目する。
「ほう、その訳とは?」
「実は私、密かにダンジョン探索者に憧れていてですね」
「ほうほう」
「そう言うわけです」
「いや!短!!理由もよくある奴だし、と言うかミリアさんは実はアイツに感謝――」
「それはそれ、これはこれです!!あんのクソババア私をダンジョンに送り込むときに何て言ったと思います?「なんか気にくわないのよね」ですよ。なんかって何だって思いません?あのババア次あったらこの斧であのキレイな顔面カチ割って中のどす黒いもん全部吐き出させてやるんだから」
「ドウドウミリアさん、落ち着いて、落ち着いて。リスナーが恐がってるから」
サグルの言葉を聞いてミリアはサグルの配信ウィンドウをギロリと睨み付ける。
【ヒッ!?】
【ヒエッ!?】
【怖ッ!?】
そんなコメント欄の反応を見てかミリアは慌てて作り笑いを浮かべる。
「ごめんなさーい、ついあのクソバ――お婆ちゃんのことを思い出したちゃって気持ちが落ち込んじゃったみたいです~」
【ナルホドそうだったのか】
【ミリアちゃん大丈夫?】
【よかった。そうだよね】
【だよね、だよね】
「お前らちょろすぎやしないか?」
【うるさい黙れ】
【うるさい】
【黙れ】
【しゃべるな】
あまりに辛辣なコメント欄にサグルは一歩後ずさる。
「一応俺、このチャンネルのチャンネル主なんだけど!?」
【それでチャンネル主さん、これからどうするん】
【教えろ】
【早よ】
【説明早よ】
「ああ!?わかったよ、それじゃあ今から今回のダンジョンアタックについての説明をします!!」
サグルがそう言うとミリアは気を付けの姿勢を取って敬礼してみせる。
「了解隊長!!」
ミリアの態度にサグル自身も満更でもなさそうな様子で「うむ」と返事を返す。
「今回のダンジョンアタックの主たる目的はゴライアスでの滞在費集めと、ミリアさんのレベリングにJobランク上げ、この三つを平行して行うことだ。また、可能であれば第10層のボスの攻略も行うつもりだ」
「おお、それはまた高い目標ですね」
「あくまで可能そうであればの話だけどね。無理だと判断したら迷いなくダンジョンから脱出するのでそこんとこよろしく」
「了解です!!」
「うん、それじゃあチームSAGURUTV出発!!」
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