第5話 ダンジョン街ゴライアス②
「女神の居場所なんて知らないですかね」
サグルは女神というワードが言えたことに驚きつつも門番の表情を見る。すると門番はそれまでの笑顔から真面目な表情になり、
「なんだ
「そりゃあ無理矢理こんな所に連れてこられたんです。恨みの一つくらいありますよ」
「こんな所か……一応俺はこの世界の生まれなんだがなあ」
「それは……配慮に欠けてました。すみません。けど!俺の言いたいことも分かるでしょう?」
「分からないこともない。が、この世界ではその女神様が一応の創造神なんだ。今後はあまり大っぴらに口にしない方が良いぞ」
「忠告ありがとうございます。それで俺の質問への答えは?」
「俺、というか少なくともこの世界で生まれた人間でそれを知っている人間なんていやしないよ。兄ちゃんだって自分のいた世界の神さまがどこにいるかなんて知らないだろう?」
「そりゃあ……そうですけど」
サグルは残念そうに顔をうつむかせる。
「そう残念がるなよ――そうだ兄ちゃんの質問には答えられないが兄ちゃんみたいに女神様に恨みを持った奴らの居場所なら話せるぜ」
「それは一体どこなんですか?」
「それはな……」
サグルは門番と別れると、門番から教えてもらった場所――探索者ギルドの前に来ていた。
「ここが探索者ギルドか」
緊張した面持ちで探索者ギルドの前に立つサグルは、短く深呼吸をすると意を決してギルドの中に入る。するとそこには多くの探索者らしき人々が食事をしたり、談笑したりと各々が思い思いの行動をとっていた。
そんな中、突然現れたサグルにギルド内の人々の注目が一斉に集まる。が、すぐに元の喧騒に戻る。
中の荒くれ者たちにからかわれるなり絡まれるものと思っていたたサグルは、少し拍子抜けするが、余計なイベントが発生しないことは良いことだと思い直し受付らしき場所まで真っ直ぐと歩いて行く。
受付には眼鏡をかけた受付嬢が笑顔でサグルを迎えてくれた。
「いらっしゃいませ新人探索者さん。今日はギルドへの登録で来られたのですか?」
「はい、それもなんですけど……
サグルの打倒派という言葉を聞いて受付嬢は眼鏡のブリッジ部分を指でわずかに押し上げる。
「私の聞き間違いでなければ打倒派、と、聞こえたのですが」
受付嬢はサグルに聞き返す。受付嬢に先程までのにこやかさは全く感じられず、表情からは何も読み取れない。そんな受付嬢にサグルはゴクリと固唾を飲み込み、
「はい、打倒派で間違いないです」
「つまり貴方もあのクソ女神に一発ぶちかましてやりたい気持ちがおありになる。と、いうことですね」
そこまで言って受付嬢は顔を上げ、ニッコリと何とも言い知れない不気味な笑顔をサグルに送る。
「いや、そこまでは言ってないかな~なんて……」
受付嬢の迫力に気圧されたのかサグルは怖じ気づいた物言いをする。と、受付嬢がその拳で机をダンと勢い良く叩く、サグルはその音に体をビクつかせる。更に受付嬢はその身をカウンターから乗り出しサグルの胸ぐらをつかむ。
「イエスかノーでお答えくださいお客様」
「イ……イエス」
「テメェは打倒――女神打倒派に用件がある」
「イエス」
「つまりテメェはあのクソビッチに恨みを持っていて出来ることなら自分であのクソビッチに復讐したいと思っている」
「イエス!」
「だったらテメェは女神打倒派に入りたいってことでオーケーか?小僧」
「イエス!!」
「オーケーそれじゃあテメェはこれから私たちの
「サグルです!!」
「オーケーサグル。私の名前はリリィ今は受付嬢なんてガラにもねぇことしてるが昔は女神打倒派としてブイブイ言わせてたんだ。よろしく頼むぜ」
リリィはそう言うと眼鏡を外してサグルの肩をグイと寄せて耳打ちする。
「だがタイミングがちと悪ぃな。今他の打倒派の連中は皆ダンジョンの中だ」
「そうなんですか?」
「ああ、今お前に渡せるモンはそう多くねぇ。せいぜいダンジョン中層までの攻略情報くらいだ」
「それだけでも十分ありがたいですよ。でも、女神に関する情報は?」
「それに関してはウチでもトップシークレットの情報だ。はいそうですかって簡単にわたせねぇな――ちなみになんだが今のお前さんのJobはなんだ?」
「『配信者』です」
「配信者って言えば最近見つかった隠しJobじゃねぇかそうかだからアイツら急いでダンジョンに潜りだしたんだな」
「?どうかしたんですか?」
「ん?いや、何でもねぇよ。それでサグルお前さんはこれからどうするつもりなんだ?」
「当面の目標もクリアしたばかりなので、今のところノープランですね。ここに来たらあのクソ女神の情報が貰えると思ってたのもありますけど」
「だったらとりあえずギルドに登録をして、後はダンジョンの攻略を進めると良いぞ」
「それはまたなんで」
「この街においてはダンジョンをどこまで攻略したのかっていうのは何にも勝るステータスであり、どれだけ多くの情報を持っているのかの目安にもなるんだ。それにこの街ではダンジョンの攻略情報ほど価値のあるものはないからな」
「つまりダンジョンを攻略することイコール女神打倒につながると言いたいわけですか」
「ああ、そうだ」
「わかりました。それじゃあ女神打倒を最終目標としてその目標達成に向けた小目標としてダンジョンを攻略していきたいと思います」
「ああ、そうしてくれ。他の女神打倒派の連中については奴らがダンジョンから帰ってきたら紹介してやるからギルドにはこまめに顔を出すようにしてくれよ」
「了解です」
「あと何か聞きたいことはあるか?」
言われてサグルはしばらくの黙考の後、「あ!」と手を叩く。
「ダンジョンで倒したモンスターの死骸ってどこに行けば売れるんですかね」
「それだったらウチでかまわねぇよ」
「それじゃあ……」
サグルは周囲を見渡して広さを確認する。
「もうちょっと広い場所ってありませんか?」
「なんだ?そんなに大量の素材を持ってきたのか?」
「はい、何せ5日分もあるんで」
「5日分?何で新人がそんなにダンジョンで……ああ」
リリィはそこまで言うと何かを察したような顔をする。
「なるほど、クソ女神絡みか」
「その通りです」
「お前も初っぱなから苦労してんのな」
「わかってくれますか」
「ああ、よ~く分かるよ」
言ってリリィはサグルの肩をポンと優しく叩き、サグルの目には理解者を得られた喜びからか、わずかに涙が浮かんでいた。
それからしばらくしてギルドでモンスターの素材を売却したサグルは女神打倒のためのダンジョン探索に向けて志を同じくする仲間を厳密に言えばパーティーメンバーを探すためにギルド内にいる人間に片端から声をかける。の、だが、
サグルと同じ志――女神打倒派の人間は思ったよりも少ないようで、収穫ゼロのまま、あっという間に一週間という時が過ぎていき
「全っ然いねぇじゃねぇか!!」
とギルド内で叫ぶくらいには苦戦していた。
ただ何も得られなかったのかと言えばそうではない。
サグルは新しいJobを発見した発見者兼、新しいJobに就いたJobの実験体でもある。
故にJobの考察勢である探索者パーティーから加入の誘いを受けたのだが、そのパーティはダンジョン利用派、つまりダンジョンひいては女神を出来るだけ活用して利益を得ようという、サグルの属する女神打倒派とは立場が異なる派閥であったため丁重に加入をお断りする。ということがあり、ダンジョン利用派という派閥が存在することや、その他様々な知識を得ていた
が、やはりどれだけの知識を得ようともダンジョンを探索できなくては意味がない。というかこの一週間でダンジョンアタックに必要な装備類やゴライアス滞在にかかる宿代でもうすでにサグルの資金は尽きる寸前、というわけで
「資金稼ぎにダンジョンに潜ります!!」
【ワーワー】
【待ってたぞー】
【て言うか資金稼ぎかよ】
【まだボッチなん?】
【さっさとパーティ組めよ】
そう言って配信ウィンドウの前で胸を張るサグル。それに対してコメント欄リスナーもそれなりに反応を返すのだが、コメントが流れる速度が明らかに早くなっている。
「おい、なんかリスナー増えてね?」
以前は50人ほどであったリスナーの数が今では100名近くまでに増えている。
「それにチャンネル登録者の数が1000人近くまで増えてんじゃねぇか!!何でだ!?」
【それな】
【それな】
【マジレスするとサグルが配信者Jobを新たに見つけたからやで】
「マジかよそんだけで登録者って爆伸びすんのかよ……てかいつのまにやらジョブランクも2に上がってんじゃん」
【マジか】
【スキルは何覚えたん?】
【スキル見して】
【スキルはよ】
「わーったって、少し待ってろ」
言われてサグルはウィンドウを操作しランクアップによって獲得したスキルを確認する。
「『撮れ高』ってどんなスキル名だよ、えっと効果は……自身がラック依存の行動を取ったとき±極大の補正を受ける。って!?なんだよこのゴミスキル!!」
【ほう】
【中々に興味深い】
【使えね】
【いや、使えるかもしれない】
【使えんだろ】
コメント欄でも意見が分かれているようだが、おおむねハズレスキル判定をされていた。
「くそ、こうなったらさっさとランク3に上げていいスキル覚えてやる」
【そうするんだな】
【でもどうやったらJobランクってあがるん?】
【普通のJobとは少し違いそうだもんな】
【配信者だしこれもチャンネル登録者数とかが関係してくるんじゃないか?】
【マジか俺たちの役割超重要じゃん】
そんなことをコメント欄が話しているのを他所にサグルは一人気合いを入れるのであった。
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