第2章 新生M・E・T

第1話 一ノ瀬莉子 告られる(前編)

 海王高校の入学式の後のクラス発表で、私と加江ちゃんは別々のクラスになってしまった。私はE組、加江ちゃんはC組。

「あちゃ~、莉子、クラス別れちゃったねえ」

 クラス発表の掲示板を見上げたまま泣きそうな顔になっている私を見て心配そうに加江ちゃんが言った。

「まあ、そんなに遠くに離れるわけじゃないし、休み時間は遊びに行ってあげるから。お弁当も一緒に食べたらええやん。大丈夫、大丈夫」

 そう言いながら私の両肩に置いていた手を背中に回して抱き締め、とんとんと背中を叩いてくれた。

 私は加江ちゃんの言葉に励まされて自分の教室へと移動した。

「莉子、ファイト!」

 別れ際、加江ちゃんはそう言ってグーにした手を招き猫みたいにちょこんと差し出した。私もグーにした手で加江ちゃんの手にこつんと合わせた。

 私の名前は一ノ瀬莉子(りこ)。私は人付き合いが苦手だ。小さい頃からそうだからもうこの性格は治らないものと諦めている。でもそんな私に寄り添ってくれる子がたまに現れたりする。中学の時は加江ちゃんだった。笹川加江(かえ)。運動が得意で勉強も出来て、明るくて、誰とでも分け隔てなく友達になる。

 肩にぎりぎり掛かるか掛からないかくらいの長さの髪を頭の後ろできゅっと結んでいる。後頭部からぴょこんと尻尾のように飛び出したヘアスタイルが彼女のトレードマークだ。

 中1のとき同じクラスになって、ぽつんと独りぼっちだった私になぜか声を掛けてくれて仲間に引き込んでくれたのが加江ちゃんだった。加江ちゃんとはご縁があったのか中学の3年間ずっと同じクラスだったから、私の中学校生活は今までの人生で一番楽しくて充実したものだった。全部、加江ちゃんのおかげ。

 高校も絶対加江ちゃんと同じとこ行きたくて一生懸命勉強も頑張ったから私の成績はずいぶん上がって、担任の先生や両親からも褒められた。

 この海王高校は文武両道が校風でスポーツ系の部活が盛んだけど、もちろん文科系のクラブも存在する。ちなみに私は文芸部に所属している。加江ちゃんは剣道部に入ったらしい。すごい!

 最初のころ、加江ちゃんは休み時間のたびに私のクラスに遊びに来てくれて、お昼ご飯のお弁当も私のクラスの教室で一緒に食べていた。加江ちゃんは私の親友なんだもん、あたりまえだって思ってた。

 入学してからあっと言う間に1か月近くが過ぎた4月も末のある日のこと。私はクラスの男子から告られた。


 中山翔太君。そんなにイケメンってわけじゃないけど明るい性格でクラスの人気者。サッカーが大好きで、よくサッカーの話題で男子同士で盛り上がっているのを見かける。当然のごとくサッカー部に所属していて、一年生ながら準レギュラーに選ばれるほど上手いらしい。

 加江ちゃんが何かの都合でこれないときは一人で本を読んでいるので、結構周囲の話し声が耳に入ってきてしまうのだ。こう言うのを『耳年増』って言うのかもしれない。

 その中山君がある日の放課後、図書室にやって来た。今日はサッカー部はお休みなのかな。私は図書委員もやっていて、その日、私はカウンター当番だった。図書館司書の先生が文芸部の顧問で、カウンター奥の図書準備室は文芸部の子たちのたまり場のようになっていて、奥からは文芸部の子たちの話し声や笑い声が聞こえてくる。

 中山君が本を持って貸出カウンターにやって来た。彼の差し出した本のタイトルは『午前10時のシンデレラ』。私も大好きな本。中学生の2人の少女の友情物語でちょっと百合が入っているんだけど、そこが堪らなくいい!

 この本を男子が借りるのかってちょっとびっくりしたけど、そんなことは顔には出さず私は黙々と貸出手続きをした。

「貸出期間は一週間ですので、それまでに返却してくださいね」

 俯いたままそう言うと、貸出期限を書いた紙をページに挟んで差し出した。

「あの、一ノ瀬さん」

 呼びかけられて顔を上げる。

「これ、読んでください!」

 白い封筒を差し出されたので、思わず受け取ってしまった。私が受け取ったのを確認した中山君は、踵を返して今借りた本を置いたまま慌てて図書館から走り去った。

 え……なに?これ、どういうこと???

 私はとりあえずその封筒を制服の上着のポケットにしまった。そして、そのまま忘れた。



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