第18話 卒業旅行(後編)

 ハウステンボスは、めちゃくちゃ広かった。東京ドーム33個分の広さらしい、なんて言われても東京ドームを知らない私には無意味ないんだけど。入口は入国ゲートって言うらしく、いきなり目の前に広がる風車とお花畑はオランダの田園風景を再現したものらしい。今は春でチューリップが満開。オランダの住宅街を再現したワッセナーから、オランダ宮殿を再現したパレスハウステンボスまで、庭園や運河、オランダ市街地を再現した街並みが続き、その間に実際に泊まれるホテルも点在している。

「たえ」

 Eが私の下の名前を呼んで手を差し出す。私はその手を握る。どちらからともなく絡めた指が会話を始める。「好きだよ」「私も」


 パレスハウステンボスまで往復して、途中でソーセージやハンバーガーを食べて出国したときには、すっかり日暮れになっていた。

 出国後、Mが予約してくれたハステンボスの近くのホテルにチェックインしたら、その部屋にはMがいた……???

「体調良くなったから、飛行機で来ちゃった」

「……」

 絶句する私。

「土屋、ごめん。私、共犯」

「このことも知ってたん?」

「うん……」

「もう愛の告白は済んだんだよね?」

 Mの言葉に、ちらっとEが私に目配せする。Eと目が合った。顔がかっと火照る。そんな様子を見てMがにっこりと微笑んだ。

「これが私から2人への最後の恩返し。私なんかと友達になってくれてありがとう。楽しかった」

「最後って、また高校で3年間いっしょやん」

「私、海王高校には行かへん」

「え!?」

 思わずMと、そしてEの顔を見る。Eが私の視線に気づいて、頷いた。このことも知っていたのか。

「私、実は明桜学園も受験してて。明桜に受かったからそっち行くことにしてん」

「どうして……」と言いながら、何となく理由は分かった。

「私は元々、江ノ本が好きで、そやから同じ高校に行きたかっただけ。2人みたいに部活に対する志望もないし。そやからもう海王に行く理由がないんだ」

「ごめんね。御手洗の想いに応えてあげられなくて」

「今更謝らないで。分かってるよ。共犯だもんね」


「ところで校章は持ってきてくれたかな?」

 そう言うとMはカバンから小さな三角形のフェルトの布を取り出した。

「これはM・E・Tの旗。私たちの記念だよ」

 その布には「M」「E」「T」とそれぞれの文字が違う色の糸できれいに刺繍されている。その布の「M」「E」「T」の部分に各自持参した校章をピンで止めた。その布を見つめてちょっとしんみりとMが言った。

「この1年、楽しかったね。この記念の旗は私が預かっておくね。またいつか集まったときに持っていくよ」

 3人で写真を撮った。Mが持って来てくれた三脚にスマホを固定してオートタイマーでシャッターを切る。

 真ん中に御手洗、その両側に江ノ本と私が立った。

「あーダメじゃん。順番が違うよ!左端が私で、真ん中が江ノ本、その横が土屋でなきゃ。それで真ん中の江ノ本はこの旗を胸の前に掲げてね」

 カシャっとスマホのシャッター音が鳴った。

「これまでM・E・Tは私たちの友情のシンボルだったけど、もう解散だし、これからは普通に下の名前で呼び合おうよ」

 とMが言った。

「私、別にそんな理由で上の名前で呼んでたわけじゃないんだけどな…… でも、そう言えば下の名前、知らないな」とE。

「じゃあ、改めて自己紹介しようか。私は土屋 妙(たえ)。よろしく」

「御手洗 英利香(えりか)。よろしくです!」

「江ノ本 瑞希(みずき)です。よろしく」

「ふむ、あれ? 下の名前、瑞希、英利香、妙って……」

「ほんとだ!またM・E・Tだよ!」

「こりゃ、まだまだM・E・Tは続くってことだね」

「結婚して苗字が変わったとしてもM・E・Tだな」

 

「うん、なんか……目から汗出てきた」

「ちょっと!泣くなよ、妙」

「泣いてないもん!」

「妙って泣き虫だよなあ。妙がお兄ちゃんに失恋して泣いてたところ思い出しちゃたよ」

「あー!私の黒歴史を暴露しないで!」

「え?何?何?妙ってお兄ちゃんが好きだったん?それって近親相姦?」

 KYの英利香が、がっつり食いつく。

「やめてー!相姦なんかしてないし!」

 私は両耳をふさいで叫んだ。



_____

ここまで読んでくださってありがとうございます。

これで第1章は終わりです。引き続き高校生になった新生M・E・Tの物語をお楽しみください!


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