第17話 卒業旅行(前編)
「3人で卒業旅行に行こうよー」
合格発表が終わってすぐの3月初め、そう言い出したのはMだった。
Mが計画した卒業旅行の行先は長崎、ハウステンボス。宿の手配も、移動手段(新幹線)の手配も「後で清算するからねー」とい言って、全部Mがやってくれた。
私とEは当日、決められた場所に旅行準備を整えて集合すればよかった。ところが集合時刻になってもMが来ない。どうする?どうする?と慌てていると、私のスマホにメールの着信があった。
「夕べから熱が出て無理!キャンセル料払うの嫌だから2人で行ってきてね。お土産よろしく!」
「はあ!?ちょっとふざけてんの?どーゆーこと?」
2人でって、そんなことできるわけないじゃない!元々、私がおじゃま虫なんだから。
「M・E・Tの卒業旅行なんだから御手洗が来ないんだったら意味ないじゃん。帰ろう」
私はそう言って足元に置いていた旅行鞄を持ち上げた。Eがそんな私の腕をとった。
「土屋、行こう」
「え?何言ってんの?」
「私、土屋のこと好きなんや」
「はあ!?江ノ本が好きなんは御手洗やろ?」
「え?違うよ。なんでそんなこと思ったん?」
「だって!屋上で抱き合ってたじゃん。2学期の期末試験の最終日の昼休み」
「あ?ああ、あれは、あんまり寒いから温め合おうって御手洗が言うからハグしてただけで」
「あの後、スカートのファスナー開いてたやん」
「あれは体が冷えてトイレ行きたくなって、そのあと上げ忘れちゃったみたいで…… ああ、土屋! それで変な勘違いしたのか!」
「……」
恥ずかしい妄想したのがバレた。顔に血が上って赤くなっているのが自分で分かる。
「でも、でも! 前に私は好みのタイプじゃないって言ったじゃん!」
「土屋が気持ち悪がったらあかんと思って嘘ついた。本当はめちゃくちゃタイプやった。そうでなかったら同じ高校行こうなんて誘わないし」
「そんな……」
私の疑問をことごとく納得のいく返答で返されて、言うべき言葉がなくなってしまった。黙って俯いた私にEが言い募る。
「御手洗に言われてん。相思相愛なのにこのままやったらあかんて」
御手洗がそんなことを。御手洗だって江ノ本が好きなくせに……でもなんで私なんだろう。御手洗の方がかわいいし絶対お似合いだ。
「なんで私なん?」
「なんでって……タイプやし、いっしょにいて楽しいし……」
「江ノ本は本当に私のことが好きなん?」
「そやからさっきからそう言うてるやん!」
Eの真剣な目で射すくめられ、私は顔が紅潮してくるのが分かった。でもそれを誤魔化すよために大きくため息をついた。
「御手洗にまんまと騙されたってことか……」
「ごめん。私も共犯」
「ひどい!私だけ知らんかったなんて」
「ごめん」
私の駄々っ子のような非難に対して、うなだれるEの姿があまりにも神妙だったので、私は怒る気にもなれなかった。それどころか可笑しくなってきてついクスッと笑ってしまった。
「行こう」
そう言うとEがそっと手を差し出す。私は黙ってその手を握った。私たちは手を繋いで改札口から長崎へ向かう新幹線のホームへと歩いて行った。
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