第10話 深刻な事態
「おはよー、ササっち」
朝、私は教室でスマホを見ているササっちに声をかけた。この学校ではスマホは授業中に操作しない限り使用は禁止されていない。
「妙……」
笑顔がかえってくるかと思ったら、ササっちは何やら深刻そうな顔をしている。
「これ、覚えある?」
ササっちが見せてくれたスマホの画面を見て私は凍り付いた。そこには電車のホームでキスする私たち2人の姿があった。遠目なのではっきりとは人物を特定することはできないが、私たちを知っている人が見ればたぶん誰かは分かってしまうだろう。その画像の2人が着ている制服は私たちの学校のものに違いない。
その画像にはキャプションが付いていた。
『〇〇〇駅で偶然レズキスしてるやつを目撃!なんとうちの学校の生徒だよー(汗)。恥い!!! 人前で学校の恥になるようなことはやめて欲しい(怒)』
「名前は書いてないけど、これ妙と瑞希……だよね。見る人が見たら分かっちゃうよね」
「……」
私はじっとその画像を見たまま、何も言えずにいた。それでササっちも察してくれたらしい。「ふう」っとため息をついて、
「今朝、SNSにこの画像がアップされてるって、朝練のとき剣道部の友達から見せられたんだ。けっこう広まってるみたいだね」
「じゃあ、瑞希も知ってるん?」
「うん……エノっちは何も言わなかったし、私も確認はしてないんだけど、たぶん知ってると思う」
「瑞希のとこ行ってくる!」
「やめとき!」
駆け出そうとした私の腕をササっちが掴んだ。
「今は行かない方がいい。放課後まで待とう」
ササっちが「ね」っというような仕草で私を見る。
「うん……」
その画像をきっかけに、2人で学校帰りに手を繋いで歩いている画像や電車のホームのベンチで並んで座って笑いあっている画像、それになんとデートのとき腕を組んで街中を歩いている画像までが次々とアップされて拡散された。
どういうこと?なんでデートのときの画像まで?ずっと私たちをつけ回してたってこと?何のために?私の頭の中には「?」マークがぐるぐる回っている。周囲のクラスメイトたちは何も言わないが、話しかけてもこないし、離れたところでひそひそ囁き合っている。よそよそしい感じがする。
ササっちだけはいつもと変わらず接してくれる。私はじっと放課後になるのを待った。
部活も微妙な雰囲気だった。同学年の子たちはいつもと同じように接しようとしてくれていたけど、無理しているのが分かってかえって痛かった。
*
「江ノ本!どうした?何考えてる?」
先輩と乱取り稽古をしていて止められた。
「全然集中できてないな。そんな状態で稽古しても意味ない。隅っこで正座して精神統一しなさい!」
なんとか冷静になろうとするんだけど、あの画像が頭に浮かんで集中できない。誰が?何のために?きっと妙も傷ついてる。そう思うと疑問とともに怒りが湧き上がってくる。私は稽古を諦めて、早々に道場から引き上げた。
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