第4話 どうなりたいの?
卒業旅行のとき瑞希に告白されて、それ以来私たちは付き合っている……のかな、やっぱり。相思相愛のカップル……のはずなんだけど、何かしっくりこない。
デートのとき2人で手を繋いで歩いていると周囲の人からの視線がささる。女の子たちが何やらこちらを見て囁き合っている。瑞希は身長が176cm、私は171cm。バレーやバスケットやってる人に比べればそんなに大柄じゃないとは思うけど、瑞希も私もショートヘアで筋肉質で、どっちかって言うと男っぽい。かわいい服なんて似合わないし、2人ともパンツにスニーカーが定番。ヒールのある靴やスカートなんて柄じゃない。おまけに私なんて年中テニスで真っ黒に日焼けしてるし。
見た目はそんなだけど私は料理が結構得意だ。お菓子作りも好き。お兄ちゃんのとき、お母さんに教えてもらって嵌った経緯がある。だからデートのときは手作りのお弁当を持って行ったりする、のだけど。
麗らかな春の一日、瑞希とのデート。公園でシートを敷いてお弁当を広げる。水筒に入れた温かいスープを2つのカップに入れ、1つを瑞希に渡した。
「おいしそー」って瑞希は喜んでくれる。
瑞希がおいしそうに食べてくれるのはもちろん嬉しい。でも、シートに胡坐をかいて座る女子2人。
「瑞希、最近、部活はどうよ」
「うん、まあ1年生の女子では私が一番強いかな。最近は男子とも稽古してるし。やっぱ共学にしてよかったって思う」
そう言いながら瑞希がペットボトルのお茶をそのまま口を付けて飲む。
「ふーん」
「妙は?硬式になってどうなん?やっぱ、かなり違うもの?」
「道具からして違うけど、一番違うのはボールのスピードやな。ソフトは軽くて速い。硬式は重くて遅い。まあ、基本的なとこはいっしょやけど、ソフトと同じようなフォームで打ったらいっぱつで手首傷めるなあ」
「ふーん」
話題は部活のことが多い。全然色気ない。私か瑞希かどっちかが女の子役をやるとしたら瑞希よりは私の方がまだしも適役かもしれない。飲み物を紙コップに注いで渡してあげるとか、食べ物を取り皿にとって渡してあげるとかって…… でも、やっぱり私には恥ずかしくてとても出来そうにない。瑞希もやって欲しいとは思わないだろう。私がそんなことをしたら瑞希はきっと目を剥くだろう。そもそも自分で取って食べたほうが早いし、好きなものを食べられる。いちいちコップに注がなくても直接飲べばコップなんて無駄なものは要らない。
心にもないことはやりたくないし、やらない主義だ。嘘つくの苦手だし、そんなことしても絶対いい結果にはならないって思う。でも、お兄ちゃんが相手だったとしたらどうだろう。たぶん私は女の子らしく振る舞うと思う。少なくともペットボトルから直接お茶は飲まないだろうし、シートで胡坐もかかないだろう。女同士だとぶりっこすると返って不自然になるのはどうしてなんだろう。
瑞希と私は映画の好みもいっしょで、アクションもの、冒険ものが好きで、怖いホラーものは苦手。おしゃれなカフェじゃなくて安くてボリュームがあるファミレスの方が好き。
好みが似ているのって、付き合うには楽でいい。意見が分かれていがみ合うことなんて全然ない。私と瑞希ってやっぱり似てるのだ。まるで自分を見ているような気持ちになる。気が合うし、2人でいると楽しい。でも恋人なのかな。友達と何が違うのだろう。
「たえ」って下の名前で呼ばれると今だにドキッとする。嬉しくて背筋がムズムズするような気持ちになる。私が「みずき」って呼んだら瑞希もこんな気持ちがするのかな。
高校生になってクラスも別々になった。お昼ご飯も別々で食べる。放課後はそれぞれの部活で忙しい。終わる時間もずれるので、偶然のとき以外、基本的に帰宅するのも別々だ。休みの日にはデートできるし寂しいってことはないんだけど…… 私は瑞希とどうなりたいんだろう。
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