第15話 M・E・T崩壊(後編)
Mが期末試験以降ずっと休んでいるらしい。あとは冬休みを待つだけなので学校的には問題はないのだが、
「今日、御手洗の家に行ってみようと思うんやけど」
下校時、私とEは自転車を押しながら並んで歩いている。部活もないし、暇だから(受験生だけど)私も行く、と言えばよかったんだろう。でも2人の関係が頭をよぎる。私はおじゃま虫にはなりたくないし、2人の並んでいる姿も見たくない。
「私は……今日はちょっと用事があるから」
私は嘘をつくのが苦手だ。すぐ顔や態度に出てしまう。よくお兄ちゃんにそう言って揶揄れたっけ。この時もEの顔を見ることができず、俯いたままだったからEがどんな顔をしたかは分からない。
「そう……」
Eは一言そういったが、その言葉に残念そうな響きが含まれているような気がして、私はよけいに居たたまれない気持ちになった。
そう言えばEはMの家がどこにあるか知っているのだろうか。それを尋ねる間もなく、
「じゃあ、私、行くわ」
Eはそう言うと自転車に跨って走り去った。その後ろ姿を見て、嘘をついてしまった自分がひどく嫌な人間に思えた。EはMの家を知ってる。私はそんな2人に嫉妬している。
翌日、Mは登校した。ただの風邪だったらしい。あれから私は何となくEとMと距離をとっている。と言ってもお昼ご飯は一緒に食べるし、3人でおしゃべりだってする。表向き何も変わらない。ただ、なるべく私からEやMに話し掛けないで、2人の会話に相槌を打つだけにしている。そんな変化を2人はたぶん気づいている。でも見て見ぬふりを続けてくれている。目前に入試が迫っている状況で、クラス全体がざわついている。今はみんな自分のことで一杯一杯なのだ。
帰り道、電車通学のMと別れてEと二人になった。私は「じゃ、また明日」って言って自転車に跨ろうとしたときだった。
「土屋、最近変だよね」
Eが突然、そんなことを言ったので私はびくっとしてEを振り返った。Eはまっすぐに私の目を見ていた。
「別に、そんなことないよ」
意味のない返事だとは分かっていたけど、そう言うより他なかった。
「私のこと、避けてない?」
「まさか……」
私は目を合わせないまま答えたが、Eはさらに言い募る。
「今だって御手洗と別れたらすぐ、「じゃあまたね」って言って帰ろうとしたやろ」
確かにEと2人だけでいるのが気まずくて、なるべく2人っきりにならないようにしていた。
「それは……早く帰って勉強しなくちゃって。入試、目の前だし。この前の期末、私10位以内にも入れなかったやろ。そやからかなり焦ってんねん」
「そう、それ。何でなん?国語の点数だけめっちゃ悪かったやろ」
「何でって、私にとっては難しかったからに決まってるやん」
Eがじっと私を見ている。嘘なんか全部バレバレだって分かってる。でも本当のこと、言えるわけがない。
「土屋、期末試験の後あたりから、ずっとおかしいよね」
Eの追及に私はとうとう何も言えなくなって俯いた。Eはふうっとため息をついて、
「まあ、ええわ。何か私には言えないような理由があることは分かったから。でも、いっしょの高校に行こうって誘ったのは私だし、高校でもできたら仲良くしたいと思ってる。今はどうしたらええか分からんけど、土屋から話してくれるの待ってる」
そう言うとEは、「じゃ、また明日」と言って笑顔を見せ、自転車に跨って去って行った。
その後ろ姿を見送りながら、私、江ノ本のことが好きなんだよ、と心のなかで呟いてみた。言葉に出しては言えない。とても切なくなって泣きたい気持ちになった。私はそんな気持ちを振り切るように自転車に跨って思いっきりペダルを踏んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます