第10話 夏の祭典1
全中、全国中学校体育大会。中3の運動部の部員にとって最後にして最大の大会。3年生はこの大会で事実上の引退となる。種目こそ違うけれど私も江ノ本もこの最後の大会に向けて全速力で走っていた。
6月に入ると市の地区予選が始まる。7月の都道府県予選、8月初めの近畿グロック予選、そして8月中旬のお盆明けに例年、全国大会が開かれる。
ソフトテニスの場合、団体戦と個人戦があり、団体戦は3ペア(1ペアは2名)で1チームを構成し、3ゲームマッチで先に2勝したチームの勝ちとなる。個人戦はダブルスのみで、7ゲームマッチで4ゲーム先に取った方が勝ちとなる。
いずれもトーナメント方式で(勝ち抜き戦)で、団体戦は決勝戦を戦った上位の2チームと準決勝で敗退した2チームによる3位決定戦の勝者の3チームが上位大会へ進むことができる。
個人戦は決勝戦までやって1位、2位は決めるが3位決定戦はせず、上位の大会への出場は準々決勝まで進んだ8ペアが出場できることになっている。
私は1年、2年のときは団体戦、個人戦の両方にエントリーした。団体戦は県大会ベスト8が最高で、全国大会に出場したことはない。個人戦では中2のとき、中3のすごく上手い先輩とペアを組んで全国大会に出場してベスト8まで進んだことがある。
あのときの先輩は卒業してしまったけれど、先輩が同級生ではなく1年後輩の私とペアを組んでくれたのは、私の実力を認めてくれたからだと思う。全国ベスト8になれたから結果オーライだけど、あの時の3年生からの無言の圧力はすごかった。
私も先輩にペアを組んでくれと誘われたときは、後々の部の雰囲気のことを考えて正直びびった。でも、
「3年はこの大会で引退だから後引かないよ。お願い!」と言う先輩のかわいい!お願いに負けて覚悟を決めたのだった。
だからって訳でもないんだけど、私が部長になった今年は学年を超えたペアを自由に作りやすくなるように心がけている。もとより同学年同士でないとペアになってはいけないなんて規則はないのだ。
そして今年は後輩育成も兼ねて、1、2年生に大きな大会の場数を踏ませたいという部長(私)の方針で、団体戦は主に1,2年生でのチーム編成することとし、3年生は原則個人戦に出場することにした。ゆえに私の最後の全中への挑戦は個人戦のみということになる。
私たち華星中学女子ソフトテニス部の個人戦ペアは、市大会を1位で突破し、県大会も1位で突破して、8月初めの近畿大会に駒をすすめている。ここで上位8位に残れば全国大会に出場できる。
今年の近畿ブロックの予選会の開催地は京都。サンライズヒル運動公園内にあるテニスコートで行われることになっている。偶然なんだけど、江ノ本情報によると剣道の近畿大会も同じ公園内の体育館で行われるらしい。
ちなみに江ノ本は個人戦と団体戦の両方に出場しており、いづれでも近畿大会まで駒をすすめているらしい。
さて、私たちのペアは近畿大会で今、準決勝進出を決めた。これでベスト4! ベスト8以上が上位大会、つまり全国大会へ出場できるから、その権利は獲得しているわけだけど、こうなったら優勝して全国大会への弾みをつけたい!なんて欲が湧いてくる。
トーナメント表によると準決勝にすすんだ4チームのうち2チームはうちの学校。もし両方のチームが準決勝で勝った場合、決勝は同校対決ってことになる。
私らの学校すげーよ!レベル上がったなあ…… 部長としてしばし感慨にふける。
「決勝は同校対決!絶対実現しよーぜ!!!」と私たちは誓い合ってそれぞれの準決勝のコートへと別れて行った。
まず決勝進出を決めたのは私たちのペアだった。となりのコートの試合は両校ペアが3ゲームづつ取って、最終第7ゲームにもつれ込んでいる。私はそのゲームの行方を観客席からはらはらしながら見ていた。
第7ゲームは相手チームのサービスからだ。最終ゲームは7ポイント先取した方が勝ちである。サービスは2ポイント毎に交代する。
すごく癖のあるサーブだ。でも上手く食らいついている。それぞれがサービスキープと1本づつのブレークで5対5になった。次の相手のサービスがエースになって6対4。相手ペアのマッチポイント。このタイミングでのサービスエースは精神的にも厳しいな。私は嫌な感じがした。でも二人は顔を見合わせて笑顔で声を掛けあっている。落ち着いてる。きっと大丈夫。
続くサーブのリターンは上手かった。相手コートのエンドラインぎりぎりに落とした。相手のリターンのコースを読んでネット前に走り込んだ2年生の子が強烈なボレーを叩き込んだ。これで6対6のデュース。ここからこちらチームのサービスが2本続く。
この2年生の子は相手のリターンのコースを読むのが上手い。そこを見込まれて個人戦に出場したと言っても過言ではない。
最初のサービスはキープした。これでマッチポイント。次のサービスをキープしたら勝ちだ。
サービスへのリターンは、ボレーを警戒した相手チームが高いロブを打った。このロブが中途半端に浅くなったところをスマッシュ気味に高い位置から叩き込んだ。これがノータッチリターンとなりボールは相手コートの後方へ転がっていった。
こうして我が校のペアが準決勝を制し、決勝は同校対決が実現することとなった。
同校対決となった決勝戦ではお互い相手の手の内を知り尽くしているだけに大差はつかず一進一退の攻防となった。でも3年生ペアの年の功(?)が勝った。
ボレーの得意な2年生の子は正面に強いボールを打たれるのが苦手だ。私はレシーブを打つとき一瞬、本当に一瞬だけ溜めて相手の動きを確認し、ボレーに走り込んでくる子の正面、ネットすれすれに強烈なリターンを放った。もしその子が避けたらエンドラインを越えるくらいの強い力を籠めて放ったから、それを正面に受けた2年生の子はなんとかラケットに当てるのがやっとといったレシーブを返した。それを私の相方が相手コートに叩き込んだ。
相手ペアはパターンに嵌るとめっちゃ強敵だけど、ボレーにミスが出ると一気に崩れるのが弱点だった。決勝は4対2で私たちが制した。
負けたとはいえベスト8に入っているから、私たち同校対決で決勝を戦った2ペアは、お盆明け8月17日から他県で開催される全国大会に出場することになった。
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