第9話 御手洗 英利香(M)
「ごめん!手紙はすぐに読んだんだけど、内容が脳に達するのが遅れて、ついさっき意味を理解した。本当にごめん!」
「ううん、いいの。本当に来てくれるなんて思ってなかったし。それに私、いつもここでお弁当食べてるから別に待ってたって訳でもないんだ」
「隣に座っていいかな?」
「どうぞ」
あ、そう言えば私は来てもよかったんだろうか。おじゃま虫だったかな。
「土屋さん、だよね。初めまして、御手洗英利香です。土屋さんも一緒にお弁当食べようよ」
「あ、うん……」
私たちは御手洗さんを挟んで左右に並んで腰を下ろし、再び膝の上にお弁当を広げた。
「私に何か用だった?」と江ノ本が聞く。
「ううん、そういう訳じゃないんだ。手紙の文面どおり、他意はないの。一緒にお弁当を食べたかったんだ」
この子、友達いないのかな。そんな疑問が当然のごとく頭をよぎる。
「私、クラスで浮いてて。別にいじめられてるって訳じゃないんだけど、何か敬遠されてるんだよね。小学校のときからそんな感じだから慣れてるけど……」
私の気持ちを読んだように彼女はぽつぽつと話を始めた。
「私、別にガリ勉って訳じゃないんだよ。アイドルとかファッションとかJ‐POPとかK‐POPとか洋楽とかだって興味あるし。でも私が何か言うと会話が止まっちゃったり、ぎこちなくなっちゃったりするんだ。なんでか分からないけど……だから私が会話に入らない方がいいのかなって思って、一人で輪の外にいるようになっちゃうの。あなた達みたいに運動は得意じゃないし。テストの成績はいいけど、そんなの別に大したことじゃないでしょ?自慢できるもんでもないし」
「いやいや、ずっとトップ3に入ってるって自慢してもいいと思うよ」
「なんで?私は別に何も努力してないし、こんなの普通のことだよ。みんながサボってるだけでしょ」
私と江ノ本は顔を見合わせた。この子、たぶんあんまり空気を読まない子なんだ。謙虚ってのとは違う。こういうセリフをさらっと言っちゃうんだろう。
「江ノ本さんのことはいつもトップ3に入ってるから名前は知ってたんだ。中学の最終学年だし、楽しい思い出が欲しくて思い切って手紙を書いたの。江ノ本さん、私とお友達になってくれませんか?」
その言葉を聞いた江ノ本が目をまん丸にして固まった。
これは愛の告白なのか?いや、それは深読みしすぎか?
私がレズビアンだと知っての告白なのか?いや、知ってるはずはない。
ならば言葉通り「友達」ってことでいいのかな?
今、さぞかし江ノ本の脳内では様々な情報が超高速で処理されていることだろう。
しかし、である。以前に江ノ本は、私は好みのタイプではないと明言した。じゃあ御手洗はどうなんだろう。私とはずいぶん違う、ほとんど正反対のタイプの女の子だと思われる。
そもそも隣にいる私を無視して江ノ本にだけ友達になってくれって言うのってどうなん?私はどうでもいいの?この子ってよく分からない。ただ『御手洗英利香はKY』だってことだけは肝に銘じておこう。
その日を境に私たち3人はお昼をいっしょに食べるようになった。晴れた日は屋上で、雨の日は御手洗さんが私たちの教室にやって来る。
学年トップ3の3人がつるんでいると言う噂はあっと言う間に広まり、私たちはそれぞれの名前の頭文字をとって『M・E・T(メット)』と呼ばれるようになった。(いったい誰が命名したのかは不明だ)
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