第8話 御手洗 英利香(M)

 私たちは揃って同じ志望校を書いた進路調査票を提出した。それをもとに2者面談が行われた。

「土屋は海王高校か。土屋だったらもっと上の高校も目指せるぞ。明桜学園なんてどうだ。確か土屋のお兄ちゃんも明桜やろ?」

「私、高校では硬式テニスがしたいんです」

 海王高校の硬式テニス部はインターハイ上位入賞の常連校だ。ちなみに文武両道が校風で剣道部も強い。

「そうか、ちょっともったいない気もするけどな……」

 ところで、と先生は続ける。

「A組の御手洗とお前らって仲いいのか?」

「いつもトップ3に入ってる御手洗さんですか?会ったことないです」

「そうか。あいつも同じ志望校なんだよ。江ノ本は剣道の強いとこ行きたいって理由で分かるんだけど、御手洗は運動苦手だし、校風にあってないと思うんだよ……お前らと仲がいいから同じ高校に行きたいってことかと思ったんだが」

「へえ、そんなんですか?私には分からないです」


 私の2者面談は5分くらいであっさり終わった。江ノ本も同じようなものだったらしい。

「私も同じこと言われたよ」と江ノ本は言った。

「私は御手洗さん知ってるよ。喋ったことあるし」

「へえ、いつ?どんな話したん?」

「おととい。部活終わって帰ろうとしたとき校門のとこで」

「江ノ本を待ってたん?」

「さあ、それは分からんけど。聞きたいことがあるって言って」

「聞きたいこと?」

「志望校はどこですかって聞かれた」

「それで?」

「別に隠すこともないから正直に教えた」

「それで?」

「お礼言われた。それでこの手紙もらった」

 江ノ本はスカートのポケットから手紙が入った封筒を取り出した。ずっと持ち歩いてたんかい。

「なんて書いてあるん?」

「お昼ご飯を一緒に食べませんかって。晴れたら屋上で待ってますって」

 そう言うなり江ノ本が「あ!」っと叫んで立ち上がった。

「それもらったのいつだっけ?」

「おととい」

「昨日、晴れてたよね……」

 江ノ本と私は広げていたお弁当を畳んでお弁当カバンに突っ込むと教室を飛び出した。私は飲み物の入った水筒を忘れそうになって一旦戻ってから江ノ本の後を追った。行先はもちろん校舎の屋上だ。

 校舎の屋上は昼間は解放されていて誰でも出入り自由になっている。フェンスがあるからわざと乗り越えようとしない限り落下することはありえない。今は4月の中旬。桜はすでに葉桜になっていて、風に冬の冷たさはもうない。御手洗さんはフェンスの前の段差に腰をかけて一人でお弁当を食べていた。柔らかい日差しをあびた彼女の長い黒髪が風に靡いてきらきら輝いている。きれいな子だな、と私は一目見て思った。

 座っているから確かなことは分からないが、たぶん背は私より低い。黒くて長いさらさらの髪は括らないでそのまま垂らしている。痩せ気味の体系。顔には銀縁の眼鏡をかけている。一見したところ大人しそうな感じがする。目が大きくて目鼻立ちのくっきりしたなかなかの美人、というよりかわいらしい子だ。

「ごめん!待った?」

 江ノ本が言った。私は、彼女、昨日から待ってるよって心の中で突っ込んだ。

 江ノ本を見た御手洗さんの顔がぱっと綻んだ。

「わー、江ノ本さん。本当に来てくれた!」



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