第7話 (E)と(T)

 江ノ本と私は2年生から同じクラスになったクラスメイトで、そんなに親しい訳ではなかった。1年生のときから中間と期末の試験の結果発表のとき必ず上位の3名に名を連ねていたから名前は知っていた。でもクラスメイトになって初めて実物を見た江ノ本は、私の想像した風貌とは全然違っていた。眼鏡をかけてひょろりと痩せていて、長い黒髪を低い位置でツインテールにしていて、いつも本を読んでいるような大人しい女の子を勝っ手に想像していた。だからショートヘアで女子としては背が高くて大柄で剣道部に所属している彼女を初めて見た時はかなりびっくりした。まあ、私だって似たようなもんだけど。

 クラスメイトになって初めて会話を交わしたとき、すぐに頭のいい子だなって分かった。中2離れした私の文学ネタや政治ネタにも反応するし、私が納得するようなきっちりした返答を返してくれる。私が振る様々なディープな話題でも彼女が知らないものはなかったし、彼女とのテンポのいい会話は変な気遣いやストレスがなくて楽しかった。

 私たち2人が盛り上がっているのを見て、他のクラスメイトが興味ありげに近づいてくることはあったが、話題のディープさに付いて行けずにそっと去って行く。私も江ノ本もグループを作らないタイプの人間だったし、いじめのターゲットになってもおかしくなかったのかもしれない。でもまあ、私はテニス部で江ノ本は剣道部。スポーツ系のクラブで鍛えていて、そのへんの子たちよりも体格がいいから、いじめるのは怖かったのかもしれない。

 授業でグループを作って何かすることって結構ある。そんなときは仲良しグループで固まるのが普通だから私や江ノ本は浮いてしまう。仕方ないので「じゃ、いっしょにやろうか」ってことになる。学年トップ3の2人がチームを作るとなると、私も入れてとクラスメイトが集まって来る。挙句の果てにじゃんけんや阿弥陀くじが始まる。そんな感じだから私たちはいじめのターゲットになることもなく、結構人気者だったりして、おおむね順調に中学生活をエンジョイしていた。


 中3になって、私は女子ソフトテニス部の部長になり、江ノ本は女子剣道部の部長になった。中3になっても私と江ノ本は同じクラスだった。そして中3になってすぐのタイミングで進路に関する調査があり、希望の進路を書き込む用紙が配られた。

「江ノ本、どうするん?」

 もちろん進路の話だ。私たちはお昼休み、運動場の隅のベンチに並んで座っていた。

「私は剣道部の強い女子校に行きたい」

「女子校?」

「周りみんな女の子って、いいやん?」

「……」

 そうか、こいつレズだった。

「土屋は?」

「私は明桜学園に行く気やったんやけど……」

「ああ、有名な進学校やな。土屋やったら受かるやろ」

「けど、やめた」

「なんで?」

「お兄ちゃんと同じとこ行くの嫌やし」

「あんたが入学したらお兄ちゃんは卒業やろ。別にええんとちゃうの?」

「土屋の妹が来たって言われるのが嫌やねん」

「ああ……なるほど」

「私、高校では硬式テニスしたいねん。そやから硬式テニス部のあるとこ行きたい。それにお兄ちゃん私立やから私は公立にしたい。親の負担も大変やろうし」

 口では親の懐の心配をするいい子みたいなこと言ったけど、やっぱりお兄ちゃんへの反発があったことは確かだ。そうでなかったら何も考えないで明桜学園を受験してただろうし。

「硬式テニス部と剣道部がある公立の高校か。それなら結構候補はありそうやな」

「女子校でなくていいの?」

「うーん、本当は女子校がいいんだけど、剣道のこと考えるとやっぱ共学の方がいい。男子とも稽古できるから。なるべく近くて、公立で、硬式テニス部と剣道部があって、なるべく強いとこってことで探してみようか」

 なんかいっしょの高校に行く前提になってる。私は江ノ本のこと結構気に入ってるからいいんだけど。(もちろん友達として!)



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