第5話 お兄ちゃんを大好きな妹(T)
私は中2のバレンタインデーにお兄ちゃんに告白するって決心した。前の晩に手作りチョコを用意し、あとは部屋に籠って一生懸命手紙を書いた。私の小さい頃からの恋心を綴った初めてのラブレターだった。明日学校から帰ったらお兄ちゃんに渡そう!
2月14日はまだまだ春を感じさせないひどく寒い日だった。私は部活を終えて夕暮れの駅の改札口を出たところだった。早く帰ってお兄ちゃんが帰って来る前に着替えなくては。
「たえ」
聞きなれた声がした。お兄ちゃん?きょろきょろ見回すと改札を出た横の植込みの前に立っているお兄ちゃんを見つけた。私は思わず笑顔になって「お兄ちゃ、」と言いかけたが、お兄ちゃんの隣に同じ制服を着た少女が立っているのに気づいて言葉を飲んだ。自分の笑顔が強張るのがありありと分かった。
「これ、妹のたえ」
その少女は私をまじまじと見ている。嫌な感じ。
「たえ、これ俺の彼女の、」
そのあとの言葉を聞かずに私はその場から走り去った。
「なんや、愛想のないやつやなあ」
「えー、土屋君の話のイメージと全然違うー」
走り去る私の背後でそんな話声が聞こえた。どんなイメージだよ!愛想無くて悪かったな!
私は家まで駆け戻ると自分の部屋に飛び込んだ。ずっと駆け通しで息が荒かったが休まず今日渡すはずのラブレターを机の引き出しから取り出してビリビリに破ってゴミ箱に捨てた。ゴミ箱を見つめながら涙が溢れた。
よりにもよってなんで今日なん?今日じゃなかったら私は手紙をお兄ちゃんに渡して告白していただろう。でもそれはこの上もない道化だ。全部私の一人よがりだったのだ。もし告白してたら私はもっと居たたまれない思いをしたに違いない。
お兄ちゃんは私の、妹の気持ちを知っていたのかもしれない。まあ、結構露骨にアプローチしてたし、普通の男子なら絶対気付くだろう。
それ以来、私はお兄ちゃんと口をきかなくなった。
振られた相手が同じ屋根の下にいるって最悪だということを、このあと嫌というほど思い知ることになる。
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