第4話 お兄ちゃんを大好きな妹(T)

 私が中学生になると3つ違いのお兄ちゃんは中学を卒業して高校生になった。当然のこととは言え3つ違いって残酷だ。

 お兄ちゃんの進学した高校は明桜(めいおう)高校と言って、この界隈では有名な進学校だ。当然入学試験のレベルも超がつくような難関校で、そんな学校へ進学したお兄ちゃんはやっぱりすごいと思ったし、両親も大喜びだった。私も絶対同じ高校へ進学すると決めていた。

 お兄ちゃんが通っていた中学校に入学して、私は迷わずテニス部に入った。お兄ちゃんは去年までテニス部の部長をしていたし、時々試合を見に来ていたから顔見知りの部員もいたりして、「土屋先輩の妹が入部した!」って噂はあっと言う間に広まった。お兄ちゃんは人気者で後輩にも慕われていたことが実感でき、私は「土屋先輩の妹」と言う立場に内心鼻が高かった。

 テニスの腕前はお兄ちゃんからきっちり仕込まれていたから、入部した当初から私はほとんどの先輩よりもうまかった。

「さすが土屋先輩の妹やなあ」と感心された。

 夏になる頃には私は一年生ながらレギュラーとして2,3年生に混じって試合に出場していた。

 お兄ちゃんと同じ高校に進学すると決めていた私は勉強も頑張った。1年生で初めての1学期の中間、期末試験で私はいづれもトップ3に入った。中間試験とか期末試験っていうものは小学校にはなかった仕組みだけど、各科目毎と総合での結果が上位10番まで職員室前の掲示板に張り出されるって仕組みも初めて知った。

 スポーツも勉強も出来て友達も多くて人気者。自分でもそう自覚していた。そんな私はお兄ちゃんにふさわしい。お兄ちゃんに本気でアプローチを始めたのはその頃からだった。

 クリスマスやお兄ちゃんのお誕生日にはケーキを焼いて(お母さんのお手伝いをして)、女の子らしさをアピールする。お正月にはお母さんに着物を着せてもらって、家族みんなで近所の神社に初詣に行った。

「たえも女の子らしくなったもんやなあー」とお父さんが娘の着物姿を見て感心してた。お兄ちゃんはただ微笑んでそんな様子を見ていただけ。何か一言くらい褒めて欲しかったなあ。

 バレンタインには、「余りものやけど」と言いながら夕べ一生懸命作った手作りの本命チョコをあげた。「大好き」って言いたかったんだけどさすがに無理だった。

 休みの日、いっしょに映画を観に行った。そういうことはこれまでだって普通にあったけど、さりげなさを装いながらも服やメイクにも気を使う。映画の後は二人で喫茶店(ファミレスやファーストフード店じゃなくて)に入った。お兄ちゃんは「高そー」って渋ってたけど強引に連れ込んだ。(ちょっと表現が露骨で赤面!)

 お兄ちゃんが高校生になってからこんな「デート」は初めて。3月、春先のまだ十分に寒い季節、お兄ちゃんはホットコーヒーを注文した。私はコーヒーは苦手なんだけどぎりぎり背伸びしてコーヒーフロートを注文した。注文したものが来るまでの間、さっき見た映画の感想を言い合って過ごした。

 お兄ちゃんがホットコーヒーにミルクも入れずに口をつける。

「おいしいの?」って聞いたら、

「やっぱ、こういう店のコーヒーはうまいな。最初はカッコつけで注文してたんやけど、慣れると癖になる。ほら、コカ・コーラみたいな感じ」

「あー、あれ薬っぽい味やけど、確かに癖になるよねえ」

「ちょっと飲んでみるか?」

「うん」

 私はコーヒーのカップを持って一瞬、お兄ちゃんが不審に思わないぐらいほんの一瞬だけ躊躇した。そしてお兄ちゃんが口を付けた同じ場所に口を付けてコーヒーを一口だけ飲んだ。苦い!これをおいしいと形容するのは自分には一生無理そうだ。

「にがー!!!」

 そう言ってカップから口を離した私をお兄ちゃんは微笑みながら見ていた。私との間接キスについては気づいたのか気づいていないのか分からなかった。

 お兄ちゃんはきっと私を好いていてくれる。私も女として多少の自信はあった。今まで何人かの男子から告られたことはある。そのたびに「好きな人がいるから」と言って断っていた。






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