第3話 お兄ちゃんを大好きな妹(T)

 少し離れた場所に立って、野球のキャッチボールをするみたいに、ラケットでボールを打ち合う。今までにもおもちゃの卓球台で散々お兄ちゃんと卓球して遊んだことがあるから要領はおなじだ。これはすぐにできるようになった。徐々に距離を離してコートのバックラインから打ち合うには、かなりの力でボールを弾く必要があって、ラケットを全身を使って振るようになると、自然とフォームが身に付いた。

 私がフォアでもバックでもちゃんと適切に打ち返す姿をみたお兄ちゃんは、

「たえ、うまいやん! 部活の1年よりたえの方がうまいくらいや」と言って褒めてくれた。

 それからはテニスコートがある公園まで2人で自転車で行って、お兄ちゃんとテニスをして遊んだ。私の腕が上がると、試合形式でちゃんとポイントも数えて。それで点数の数え方も覚えた。「ゼロ」ってなぜか「ラブ」って言うんだ。試合開始の掛け声は「ラブオール、プレイ!」って言うらしい。私は「ラブ」に「大好き」って気持ちを重ねてしまって、その言葉を言うのがちょと恥ずかしく、でもちょっと嬉しくて、何か告白しちゃってるみたいで、背筋がむずむずするような、変な気持ちになってしまうのだった。

 試合形式ではさすがにセットは採れなっかけど、時々はゲームは採れるようになった。


 お兄ちゃんの学校で試合があるときは、私も観戦に行ったことが何回もある。中学校なので部外者は立ちリ禁止なんだけど、校門でお兄ちゃんに電話を入れるとお兄ちゃんが迎えに来てくれる。

 お兄ちゃんが中学3年のときだった。試合が行われるコート脇でお兄ちゃんと並んで立っていると後輩らしき人が話し掛けてきたことがある。その当時、お兄ちゃんはテニス部の部長をやってると聞いていた。

「お!土屋先輩、彼女っすか?」

「ばーか、妹だっつーの」

「へえ、土屋先輩の妹さんすか、かわいいっすね。君、お名前は?」

「え、あの……」

「ええから、お前は会場準備してこい!」

「うわ!お兄ちゃん、こえー」

 そう言って笑いながら去って行った。私、彼女に見えるのかな。いつか本当の彼女になりたいな。「ああ、俺の彼女」ってお兄ちゃんに紹介されたら……想像して一人ほくそ笑む。

 試合はシングルスとダブルスがあって、お兄ちゃんは両方に出ていた。私と遊んでいるときとは違う真剣なまなざし。エースが決まったときのガッツポーズ。そして勝ったときの全身で嬉しさをあらわして仲間とハイタッチして喜ぶ姿。そんなお兄ちゃんを見ているとまぶしくて、私の方が感動しちゃって図らずも涙ぐんでしまった。






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