第2話 お兄ちゃんを大好きな妹(T)
私は小さい頃からお兄ちゃんが大好き。近所のお兄ちゃんとかじゃない。3つ年上のちゃんと血がつながった本当のお兄ちゃん。
大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになるんだとか、小さい女の子にはよくある話だ。でも成長するにつれてそんな妄想は消え失せて、へたしたら「お兄ちゃん、まじうざい」とか言うようになるって話もよく聞く。
そんな世間のくだらない話なんてどうでもいい。私は「大好き」の気持ちを、中学生になった現在も心の中でずっと大事に育てている。
3つ違いのお兄ちゃんが中学生になったとき、私は当然まだあと3年間は小学生で、詰襟の黒い制服を着たお兄ちゃんが大人っぽくてまぶしかった。カバンもランドセルじゃなくて、手に下げるタイプのものに変わる。クラブ活動ってのもあるらしく、テニス部に入部したお兄ちゃんは制カバン以外にテニスラケットやらシューズやウエアなどの入った大きなスポーツバッグを肩にかけて登校して行く。
ランドセルを背負って、普段着で登校する自分がひどく子供っぽく思えて嫌だった。私も早く大人になりたかった。
お兄ちゃんがテニス部に入部した当初に親に買ってもらった新品のラケットは、それがおもちゃではなく本物の「道具」であることが分かって、まるで大人のシンボルのように見えて羨ましかったけど、だからこそ「自分も買って!」とは言えなくて、お兄ちゃんがどんどん遠くへ行ってしまうようで寂しかった。
ある日、お兄ちゃんは卒業生が残していった使い古したラケットをもらってきて、それを私に貸してくれてテニスを教えてくれた。色も剥げていてかなりぼろっちかったけど、本物のラケットに触れることがやたらと嬉しかったのを覚えている。
グリップの握り方、ラケットの構え方、ボールの打ち方、フォワードストローク、バックストローク、足運び。そしてサーブの打ち方。ここまでくるとテニスコートのラインの意味も知ることになる。サーブを打つ位置、サーブを入れるエリア、ダブルスとシングルスでラインの意味が違うことも教えてもらった。
初めて見たテニスのボールはぷにぷにして柔らかく、「おへそ」と言われる固い部分に専用の空気入れの針を刺して空気を入れる構造になっている。様々な「おもちゃ」ではない専用の「道具」を使うとき自分も少しお兄ちゃんに追いつけたような気持ちがした。
中学生になっても今までと同じように私と遊んでくれる。優しいお兄ちゃん。大好き。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます